お悩み相談


「私、ブローカさんみたいになりたいんですよ!」
「はぁ……?」

いつもの定期検査を終えたなまえから真面目な表情で"相談がある"と言われ、蓋を開けてみるとどうだ突然突拍子もないことを言い出したなまえの言葉に思わずブローカは気の抜けた声をこぼした。

「なんだって急に…」
「私この身長だからナメられるというか、下に見られてしまうことが多くてそれで不便もあったりしたんですよ。だからナメられないようになりたいなって常々思ってたんです」

突拍子もない話、だが本人にとっては大真面目なようで真摯な顔つきで話す様子から普段の様子からは想像もつかないがこれまで見た目で苦労したのだなということが伝わってくる。
ブローカはなまえの仕事に対する姿勢を知っているし、その情熱と責任感には一目置いていたので、そもそもそんなことをしなくとも下に見られるどころか寧ろ伝わる人には尊敬されるものがあるのにと言いたいところだったが真剣に悩んでいるなまえの目に見つめられると"必要ない"と切り捨てることも出来ずになまえの気が済むまで相談に付き合うことにした

「ほら、ブローカさんって周りからちょっと距離おかれてるじゃないですか、だから見習いたいなあと!」
「……」
「どうしたらなれると思います?やっぱり筋肉でしょうか?」

ムンッと両腕を持ち上げてダブルバイセップスのポーズをとって見せるなまえの両腕はどう見ても筋肉とは無縁そうなか細い腕で、本人も自覚はあるのか重力に従ってパサリと落ちていく余った白衣の袖を見て渋い顔をする。

「…ブローカさんくらい、はちょっと遠い道のりですね」
「やめとけ」

小さいままで筋骨粒々ななまえの姿を一瞬思い浮かべてしまったブローカが苦虫を噛み潰したような顔で間髪いれずに否定するとなまえも端から諦めて半分だったのか否定されて落ち込む様もなく"やっぱりか…"と早速次の案を練り始めた


「辛辣ですね…じゃあ……あっ、顔!表情を真似してみます…

こうかな…ん゛……ど、どうでしょう」

名案を思い付いた、となまえは目を光らせすぐに眉間に皺をつくり眉を潜め、口はきゅっとつぐんで見せた。"真似をしてみる"と言っているのだから恐らく本人にしてみれば険悪な、人を寄せつけないような表情を作っているつもりなのだろうがその表情で近寄り難くなるか…と言われると全くそんなことはなくむしろどうしたのかと聞きたくなるような顔に見える。

「どうですか?この前キアーベさんにはお腹痛いのかって心配されたんですけど中々いい線いってませんか?」
「ポメラニアンの威嚇」
「ポメッッ……!!」

キアーベがそう言ったのもわからんでもないな…、下手くそな威嚇顔をしながらなぜか手応えを感じている様子のなまえにブローカが思った感想を率直に述べるとなまえは一瞬で表情をくもらせショックでうちひしがれて机につっぷした

「うぅ…どこが駄目なんですか?何かそういう顔するコツとかありますか!?」
「コツ…って言われてもな、気づいたら癖になってたから特にない」
「癖、ですか?」
「あぁ、昔頭領に言われてからやるようにしてたら気づいたら癖になってた」

癖にコツを求められても、困ったようにそう返すとブローカの話に興味を持ったのかつっぷしていたなまえがゆっくり顔をあげて不思議そうな眼差しでブローカのことを見つめた。
平和なところで育った彼女の中で険悪な顔つきをすることが癖づくような環境は今まで経験したことの無い未知であったのだろう、どうしてと言いたげな瞳で見つめられるとブローカも自然と経緯を話し始めていた。理由を聞くとなまえは目をぱちくりとさせる


「へぇ〜…それってキアーベさんじゃないですよね」
「?あぁ」
「…なんか、ブローカさんって実直な人なんですね」
「……はぁ?」

思いもよらないなまえの言葉にブローカは思わず眉をひそめ、すごむような低い声が出てしまったがもう慣れてしまったのかなまえはこの程度の事を気には留めないらしくにこにことしているし、"そういうところ"に振り回されている自分がいるのだとブローカは驚いたことを誤魔化すように咳払いをし話を続ける


「どうして今の話の流れでそうなるんだよ」
「だって、その頭領さんって昔に仕えてた人でしょう?今は関係もない、そんな人に言われたこと未だに癖づいてるってよっぽど真面目にやってたってことじゃないですか。それって凄く真面目というか、誠実な感じが素敵だなって」

"っていうかブローカさんの真面目なところちょいちょい出てますよ"と付け加えて笑うなまえの頭にはもうナメられなくなりたい云々の悩みは残っていないようで話題はすっかりブローカの話に移ってしまっている。
そういうところが子供っぽいって言われるんだろ、喉まででかかった言葉を飲み込むと代わりに大きなため息が出てきた。言えばきっとまた進展のない作戦会議が続く、それも面倒だ

この医者との付き合いもそれなりに長くなりもうペースを乱されることには慣れたつもりでいたがの彼女の言動はブローカの予想を超えているようで、そして当人にその自覚がなく純粋な好意と尊敬からくる褒め言葉に振り回されていることが反対に悔しさを掻き立てる。

「…あんた、他人からよく変わってるって言われるだろ」
「な、なんで急に貶すんですか!!!」

本当は、本人の気が済むか諦めが着いた頃に最初に言いかけた"そんな事しなくてもなめられないから必要が無い"話を持ち出そうと思っていたのだがかき乱されている事への悔しさと、数十秒前まで真剣な悩みを話していたかと思えばすっかり忘れるような能天気さに本当に凄いのか怪しく思えてきたブローカはこの話題の中で言ってしまった後のなまえの反応を考えて撤回するともう少し悩ませてやろうと照れ隠し混じりで代わりの、曖昧なニュアンスの褒め言葉をなげかけた。

その思惑通り、罵倒されたと嘆くなまえが自分が評価されていることも知らずにまた新たな悩みの種に頭を悩ませるのはまた別の話






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