ガールズトーク


(※「恋心に爪を立てた君」のオマケ。この話は夢主とモブが話すだけになります)


「ねえなまえ、あの人の担当なの嫌じゃない?」

同僚3人との他愛もない会話の中で突然投げかけられた問に思わずなまえは固まった。そんななまえを置き去りになまえに問いかけた同僚は だって彼、少し怖いでしょう? と話を続けた。

話題の"彼"とはなまえが定期検診の担当に着いているブローカの事…なのだがなまえにはどうして彼が怖く思えるのか、その気持ちがわからなかった。確かに自分も第一印象は決して良かったとは言えない、けれどそれはなまえの個人的なトラウマが起因したもので誰から見ても怖い、という風には思えなかったのだ

「…大きいから?」

捻り出した末に辿り着いた理由を聞いてみると一緒に話をしていた3人はそれぞれ思い思いの反応を見せたが、それはどれも正解を示すものではなくなまえの素っ頓狂な答えに驚いたり困る…といった反応でなまえは「あれ?」と目をぱちくりさせる

「確かにガタイはいいしそれもあるけど、怖い顔してるじゃんいつも!」
「ロドス内で誰かと喋ってるところとかも見た事ないけど…むしろなまえは何話してるの?」

「そりゃあ…健康状態の話とか、任務の話とか、普通に雑談しますよ。あまり詮索されるのは好きじゃないみたいなのでプライベートな話はほぼほぼ私が一方的にしてますけどちゃんと相槌してくれますしたまに自分のことも教えてくれたりして」

なまえが正直に答えると3人からは驚きの声が上がる。そんなに驚くことなのだろうか

「え〜っ!想像出来な〜い!!」
「それ本当に雑談?なまえが一方的に喋ってない??」
「な…ッ!?ちゃんと楽しそうに聞いてくれてますよ!」

「楽しそうに談笑の想像が出来なさすぎる…」
「ね〜彼笑わなさそうだもんね」
「楽しそうってどうやって判断するの…?」
(ブローカさんのイメージって……)

なまえは自分の知っている姿と周りがイメージしている印象や人柄にそこまで乖離があるかと驚いて溜め息をついた。
確かにいつも眉間にシワは寄せているし愛想がいい方ではないことも、まだ少しずつしかロドスという組織に気を許してはくれていないこと、体が大きいから近くにいるのに遠く感じることがあったりと…少し近寄り難い印象を抱きがちなことはなまえも承知している
…つもりだった。しかし実際聞いてみるとこんな反応をされるのかと、実際彼と親しくしているなまえとしては驚くような残念なような、とにかく納得がいかない気持ちだった

「そんなに怖い人のイメージがついてるんですね…
でも、話してみると本当に優しいし楽しそうにしてくれるんです!声に出して笑ったりはしないタイプですけど目元が優しそうだったりちょっと口元が緩んだり、コミュニケーションとってみたらわかりますから!確かに私も最初は自分が一方的に喋ってるなって思いましたけど段々相槌に質問が混じってきたり、優しい顔してるのが分かるようになってきたんです!」

ここは知っている私が誤解を解かないと!、なまえが意気込んで捲し立てるように彼のいい所をあげはじめると3人はぽかんとした顔でなまえを見つめ、なまえがやっと話をとめるとどこか呆れたようで何故か少し照れまじりの顔を見せた。


「…なまえそれ…」
「?」
「世間ではそれをマウントと言うんだよ…」
「マ、マウント……?」
「ご馳走様です」

聞きなれない単語だけど褒められてはいないことはわかったなまえが困惑していると、なまえにもわかる単語で1人が
「…っていうかなまえさあ、そんなに言うってことは好きなの?」

と、包み隠すことなく聞いてきた。
予想外の質問と内容になまえは動揺しながら返す

「えっ、な、なんでそんな話に…!?」
「だって凄い力説するから」
「めちゃめちゃ饒舌だったね」
「それは勘違いされてるのが嫌で…」
「いやいや、好きでもない人だったら勘違いされて嫌だからってあんな必死にはなれなくない?」
「ちがくはないですけど違いますから、ほんと」
「でも趣味はいいと思うよ?あの人いっつも眉間に皺を寄せるけどよく見ると顔かっこいいじゃん!」

否定すればするほど出てくるボロをつつかれたじろぐなまえを前に「恋バナ」の気配を察知した女子達はより一層話に熱が入りはじめる。
なまえとしては"親愛"や"懇意"が適切だと思っている自分の気持ちを誤解されて伝わっている事への焦りと、"そう思いたい"と言い聞かせていた自分の答えを客観的に否定された焦りとでいっぱいいっぱいなので何としても早急に話題を変えて欲しいのだがその意図は虚しく話題は思わぬ方向へと舵をきった。


「か、かお…?」
「あんたよく見てるね〜私怖くて目合わさないようにしてるから顔とか考えたこと無かった」
「勿体ない!すごい綺麗な顔してるんだってほんと!ねえ、なまえはわかるよね?」

なまえからしてみればここはなるべく濁して話を切り上げたいところだが「わかるでしょう?」と否定を許さない彼女の期待感たっぷりの目に負けて「確かに整ってるなとは思いますけど…」ともごもごしながら肯定すると現場はより一層の盛り上がりを見せた。

「ほ〜らぁ」
「大きいからボンヤリとしか覚えてないけど言われてみればそうかも」
「ね!やっぱそう!」
「ふ〜んそんなに言うなら今度遠目から見てみようかな」
(ブ、ブローカさんの評価がすごく上がっている気がする…!!)

数分前まで怖いだの言われていた評価があら不思議。一瞬にして「顔がかっこいい」に変わってしまった
おかげで先程までの近寄り難さが心做しか薄れつつさえある。なんだか女子ってすごいな…なまえは圧倒されて思わず生唾を飲み込んだ。

けれど、さっきまでは自分がなんとしても印象アップしてみせる!と奮起していたはずなのに今こうして注目の的としてきゃあきゃあ言われるのを見ているとなんだか胸がモヤモヤして、納得がいかない気持ちになるのは何故だろうか。


「なまえ、なまえ」
「な、ナンデスカ!」

1人モヤモヤに意識をとられていたなまえが慌てた声をあげると声をかけてきた同僚はなぜか暖かい目で笑っていた。

「そんな悲しそうな顔しなくてもとらないから安心しな?」
「へ、悲しそう…でしたか」
「とっても」
「なまえは顔に出るからねえ」
「ヤキモチ妬いちゃった!?大丈夫大丈夫!さっきのマウント聞いて狙おうとは私は流石にならんから!」
「あ、あの……えっと……」

"むしろ応援してるから!!"と親指を立てられるとなまえは途端に恥ずかしくなってしまった。
ブローカの印象が良くなることも彼がロドスに馴染めることも親しい間柄なら尚更喜ぶべき事なのにそれをどこかで不服に思うこと、それを態度に出してしまったこと、あまつさえその事に気を使われたことも恥ずかしかった。
キャッキャしているのを見てネガティブな気持ちになっていたのに応援してるよ、なんて言われてしまっていたたまれない気持ちでいっぱいになってしまった。今すぐここから消え去りたかった。

「なまえいる?」
「はい!!ここですここ!ここに居ます!!!」
「うわぁ圧すご…前回のドクターの健康チェックの時のデータ見せて欲しいんだけど今いい?」
「今全然いいです暇です!すぐお見せしますし分からないことはなんだって聞いてください!」


都合よく他の医療オペレーターが呼びに来るとなまえはこれは好機と言わんばかりの声量で返事をし、要件を伝えられると必要もなく慌ただしく駆けていってしまった。
幸せなことに彼女はあからさまに逃げ出す後ろ姿を残された3人が子を見るような目で見ていたことも、本人がいなくなったことでこの話がますます盛り上がりを見せることなど知りもしないのだった






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