研案塔にて
「无」
目の前でひょこひょこと揺れる白い物体の名前を呼ぶ。するとぴんっと反応してこちらをバッと見る白い物体こと无。
かわいいなぁとおもってふはっと笑をこぼすとなんで笑われたのかわからずたちまちおどおどしだすのにさらに笑ってしまう。
「…知香?」
「ごめんごめん…くくっ、无、眠いならもう寝たら?」
「知香も…もう寝る?」
「や、私は花礫を待っとこうかな…」
今の時刻は草木も眠る丑三つ時。規則正しい生活を続けてきた无には少しばかり辛い時間。じゃあなんでこんな時間に起きているのかというと
前に着いていった煙の館で追った傷を見てもらうために研案塔で早く検査が終わった私たちが部屋で花礫を待っているのだ。
「じゃあ俺も待つ!」
「へぇ、起きてられるの?」
「られる!」
「ふふ、頑張れ」
ベッドの上でうつらうつらしながら小さい虚勢を張る无。ああ、かわいいなぁ。
でもやっぱり虚勢は虚勢で、无は数分も立たないうちにベッドにぽふっと音を立てて倒れてしまった。
「ほら、ダメだったじゃん」
そう呟いて布団まで下敷きに寝てしまった无の上に自分の布団をかける。
___カチャ
その瞬間聞こえてきたドアの開く音に、もう少しだったのに惜しいね无と、独りごちる。
やたら広く夜で暗くなり音の少ないこの部屋に大きく響いたその音におかえり、と小さく声をかければ
「…ただいま」
少しぶっきら棒にそう返ってくる。ドアに背を向けていた体制で振り返ればよほど疲れたのか若干イライラした顔を花礫がそこにいた。
「无、花礫を待ってたけどさっき寝ちゃった」
「こんな時間までなにやってんだか」
「まぁまぁ、待っててくれたんだからかわいいじゃん」
「はいはい」
喋りながらもベットに向かう花礫にお風呂入った?と問えば入ったと返ってき、歯は磨いた?と問えば
「風呂でた時に磨いた…ってお前は俺のかーちゃんか!」
もぞもぞ布団に潜りながら返していた花礫だが急にバッとそう怒鳴ってきた。
「あー、大っきな声出さない!无が起きちゃうでしょ」
「お前がっ…はぁ、もう寝る」
また言い返しそうになった花礫は諦めた様にもぞもぞと布団に潜ることを再開する花礫。そんな花礫の布団に、私も潜り込む。
「…っは!?お前、何やってんの!?」
気づいた花礫がぐいぐいと押し出そうとして来る。まけじと私も花礫にくっつこうと力を込める。
「无に…っ布団渡したから!私無いの…!」
「そんなもんっ…ひ…っぺがせ!」
「无が風引く…!」
お互い様力みながら話をする。ぬぬぬぬぬと防功戦を繰り広げていたが、ついに花礫が折れた。急に抜けた花礫の力のせいで支えがなくなり、花礫の胸にどんっとぶつかる。
「ぐっ…」
「ぴゃっ」
お互い情けない声を上げてぶつかる。花礫は相当痛かったのかぶつかった胸を抑えて悶えていた。
「うわっ花礫っごめん!」
「お前…なぁ…もうちょっと大人しくできねェのかよ…っ」
「ごめんってば」
「はぁ、もう良いから寝るぞ」
「ううう、ごめんねぇ」
「良いっつってんだろ!ほら寝ろ!」
そう言って枕を半分開けてくれた花礫。ああああ、花礫もかんわいい!
「ふふふふふ、花礫、おやすみ!」
「なんだよ気持ちわりィ…おやすみ」
分けてくれたまくらに頭を乗せ花礫にきゅっと抱きつく。この幸せな時間がいつまでも続く様に、祈りながら目を閉じた。
(…ぃ…おい!おきろ知香!)
(む…)
(むじゃねェ!話せこのバカ!)
(ぴっ、殴ること無いじゃんか!)
(うるせーよ)
…初めてのカーニヴァル短編。ドキドキします。
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