気づいたものはピンク色



私はどちらかと言えば規則正しい生活を心がけている。午前5:30起床、6:30までに身支度を済ませ朝食を摂る。午前8:00までトレーニングそれから……花礫くんと无ちゃんを起こしに行く。


だいたい私が行く時にはもう既に花礫くんは起きて身支度を済ませてあって、私は花礫くんに朝ごはんのメニューを教えて无ちゃんだけを起こすという感じだ。いつもなら簡単にできるそれが、今日はまるで出来ない。


起床もトレーニングも普通に出来た。でも、起こしにいけない。今だって花礫くんと无ちゃんの部屋の前でかれこれ十数分は立ちっぱなしだ。理由はもちろん昨日のあれだ。


昨日は何をしても花礫くんの事を思い出してしまい大変だった。熱を覚まそうとコップを手にした自分の腕を見たら花礫くんの腕はもっと太くて硬かったなと赤面し、シャワーを浴びようと脱衣所で鏡をみれば花礫くんの肩は自分よりもっと広かったなと赤面し。


しまいにはやけくそでふて寝しようと布団に潜り込んだら少しひんやりした布団の中に花礫くんに囲まれていた時は暖かかったなと考えてしまい赤面し、結果何をするにも花礫くんが出てきていた。


私はそんな私に混乱していた。だって花礫くんが男の子で私より大きいのなんて当たり前のことで、こんなにドキドキするなんておかしいんだよ。唯一無心でいられたのはトレーニングの間だけだった。それも終わればすぐ起こしに行く事が頭に浮かんで昨日の花礫くんが浮かんでまた赤面したが。


さて、どうする。これはもう心の中で何十回も言ったことだ。ドアを隔てたそこには花礫くんがいる。別に普通にしていたら言い訳だが如何せん出来そうもない。


___ガチャ


私がもんもんと立ちすくんでドアノブを凝視していると、そのドアノブが動いた。まるで予想していなかったその事に間を少し見開いて固まっているとドアが開いた。


私の方に向かって。


「…っが!」
「うおっ、何だお前居たのかよ!?」


開いたドアは俯いていた私のおでこにクリーンヒット。決してスローモーションではない普通の早さで向かってきたそれは私のおでこを容赦無く痛めつけた。


私は強打したおでこを必死にを冴えてしゃがみ込み整理的に出てくる涙を押さえ込んだ。扉を開いた花礫くんはびっくりしながらも私のおでこに当たったとわかった瞬間部屋に引き戻った。酷い。


「っつぅうう…」
「ホラ、冷やせ」


どうしようもない痛みに唸り声をあげた瞬間、急に視界が陰ったと思えば上から降ってきた優しい声。見上げるといつもの仏頂面で冷えてるであろうタオルを差し出してくれている花礫くんがいた。


その一連でさっきまで悶々と悩んでいた事など頭から抜け落ちた私はありがとうと例を述べ素直にタオルを受け取った。


「…冷たあ」
「当たり前だ…それよりお前、何であんなとこでつったってたんだよ」
「…え、あっ、それはそ「无ちゃ〜ん!花礫く〜んご飯できてるよー!」


どう言ったらいいのかわからずモゴモゴしていた時に運良く與儀が現れた。ナイス與儀。花礫くんは急に現れた與儀に驚いて肩をビクつかせた。


部屋の奥からうぅ〜んと唸り声が聞こえた。花礫くんは與儀に任せて、私はやっと朝の人仕事をこなす事が出来た。




















「療師!」
「おお知香か、どうしたんじゃ」


私はこのドキドキの正体を探るために療師の元へ来た。私だって子供じゃない、いくらなんでもまさか…と思うものはある。だてに15年生きてない。


今はそれを確かめるためにここに来た。私は疑り深い性格だ。大きな事に関しては自己完結はあまりしない、必ず証拠とかがないと納得できない。まぁ、面倒くさい性格だ。


取り敢えず事の次第を療師にぼそぼそと伝える。療師はほーぅ?などとニヤニヤしながら聞いてくれた、何でかからかわれてる感じがするのは間違いじゃないだろう。


「それで療師…私、不整脈でしょうか」
「…本気でいうとるのか?」


最後にそう聞くとニヤニヤが一瞬でほうけた顔になった。もちろん本気なわけない。療師が即答でそうじゃなとでも言えばそうなのだろうが今の反応だったら私の予想は当たってそうだ。


「もちろん冗談ですよ、療師…私は花礫くんに…恋をしているのですか?」
「ほっほっほ、それは自分で決めることじゃ」


そう療師に若いのぅとの小言付きで言われて眉を寄せる。わからない。私は恋とか愛とかよくわからない。そんな事した事ないからだ。


むむむむむと私が眉を寄せたまま固まっていると、またほっほと軽快に笑った療師が知香と名前を呼んで来た。


「そうじゃな…ためしに花礫とした事を與儀とやった事にして思い出してみなさい」
「與儀と…?」


私は素直に花礫くんとの事を思い出しながら花礫くんを余儀に置き換えてみた。なんか凄い違和感。それに、


「全然ドキドキしない…」
「ほっほっほ、答えを見つける方法なんて案外近くにあるもんじゃ」


試しに平門さんや喰くん、朔さんではと考えてみたけど、何も感じない。朔さんに至っては少し寒気がしたくらいだ。


それがわかった瞬間、身体中で何かが弾けた。一気に目の前の景色が鮮やかに色付き始め、身体中の血液が湧き立つ。ほっぺたがぽわぽわと熱くなり空気が、水蒸気が輝いて見える。


「…っ療師!ありがとうございました!」


私は勢いよく走りだした。この熱は覚めそうもないけど貯めておけなかった。走りながら花礫くんを思い浮かべる。確かにドキドキするし赤面だってしてるだろう。


「私、私…」


花礫くんが好きなんだ……!


そう頭で理解した瞬間、もう居てもたっても居られなかった。誰かが恋をしたら世界が変わる、何て言っていた。私はいつもそれを大袈裟だなあとどこか冷めた目でみて居たけど…本当に変わると思い知った。


だって私の視界が、あり得ないくらいにキラキラしてて鮮やかで、体がすごく軽くて、胸がこんなに、ピンク色だ。





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