ありふれた非日常
暗い、暗い夜道を、ただひたすら当てもなく歩いていた。


今まで当たり前のように過ごしていた日常は、ほんの数十分て全て崩れ去ってしまった。


ただ、守りたい。そう思っただけ。そう思っただけなのに。恐れ、軽蔑、奇妙なものを見る様な目で見られ、全てを奪われた。


こんな事があるなんて、まるで夢を見ている気がしてならない。今まで生きてきた世界が全て、ひっくり返ってしまった。


これから何処へ行って、どうやって生きていく。それすら分からないなんて、私は今まで何のために学んできた。


なるべく人が少ないところを歩く。そろそろ体力が無くなってきた。


「おい」
「ひっ」


急に聞こえてきた人の声に、怯えた声がでた。


「こんなところで一体なにしてやがる」
「あ…あの、い、家に帰ろうとしてて…」
「…この先には廃れた商店街しかねぇのにか」
「え…と、あの」


ここが何処かなんて分からず、適当に答えたら、あっさり嘘だと見破られた。


「…行くところがねぇのか」
「あ、そんなこと、ない「じゃあ何のために」
「え、と、その…」


何も言えない。今のこの混乱した私の頭じゃ、良い言い訳なんて出てこない。


「何かあったのか」
「いえ、別に…」


なぜこの人はこんな事を聞いて来るんだろう。何で、ほっといてくれないのだろう。何で…何で…!


「ひっ、く…な、で!何で話しかけるんですか!?…っ、ほ、ほっといてください!私は…私は…!」


嗚呼、今の私、本当におかしい。狂ってる。自分で自分を制御出来ない。



「知らねぇよ」
「…え?」
「お前の事情なんて俺の知った事か」


ひどく落ち着いた声で、ゆっくりと冷静にその人は言う。


「…お前が死にそうな顔してたから話し掛けた。それだけだ」


何だか、この人になら救われる。助けを求められる。そう、思った。


酷く狼狽しているせいもあるし、何よりこの人の不思議な雰囲気が私をそう思わせたのかもしれない。


「わ、私…本当にただのどこにでもいる様なOLで…っ、は、話、聞いてくれますか…?」


その人は、無言でその辺にあった低い塀に座った。こ、これは聞いてくれるってことで、良いのかな…?


そう思って私はゆっくりと、会社で仕事をしていたら知らない人が突然入ってきたこと、仲の良かった同僚が人質にされて金を出せと脅されたこと、お金を出したのに同僚を殺そうとした犯人に腹が立った瞬間身体か熱くなったこと、気づいたら周りの人が怯えてて犯人は何故か血塗れで倒れていたこと、必死にやってきた得体のしれない青い服の人から逃げて来たことを話した。


その人は始終無言で、本当に聞いているのか分からないような感じだった。


「あの…」
「こっちに、来るか」
「え?」
「こっちは、それが普通だ」


そう言って私に手を差し伸べて来た。


その人がいう"それ"が何を指すのかは分からないけど、今の私に選択肢が無いことは分かっていた。


私は震える手をその人に重ねた。












(そこは、ありふれた非日常で)
(満ち溢れていた)



…私にも良く分からない出来になってしまった。


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