「み〜さ〜き〜?こんな所で仲良く行進タイムかー?相も変わらずお前らは平和ボケしてんなあ」
「てめぇ!猿!何でこんな所にいやがる!」
全てはそこから始まった。
私達が出雲さんのバーの買い出しという名目で遊びにきていた街中で、たまたま出会ってしまったセプター4の面々。
何やら過去の因縁があるらしい八田さんとセプター4の眼鏡さんは戦う気満々。最近刺激のなかった私は、その雰囲気に飲まれてしまった。
「何考えてんねんアホか!八田ちゃんも日向おんねんやったらやめんかいな!」
出雲さんの怒号に、正座している者全員の肩が跳ねた。セプター4との交戦で、私達は案の定怪我をして帰ってきた。笑顔で出迎えてくれたが、その姿を見た出雲さんは、さっと笑顔を切り替え、まぁ座りやと床を指さした。
その顔と行動から、怒られるとは予測していたが、まさかここまでとは想定外だ。
「い、出雲さん……!私が勝手に混ざってしまっただけで八田さん達は「日向は黙っとき!」……はいぃ」
正座組の一番端から出雲さんに声をかけると、物凄い剣幕で跳ね除けられた。怖い。トラウマになりそうだ。
「まったく……いくら猿くんがおったからて状況を判断せなあかん、何べんも言うたやろ」
「う、すみません」
額に手を当て、カウンターに寄りかかりながら、出雲さんは絞り出すように声をあげる。
助けてキング……! 出雲さんの視界に入ってない隙に、ソファーにいるであろうキングへと目を向ける。
そこにはアンナちゃんと仲良く居眠りをするキングがいた。……気持ち良さそうッスね!
「日向、ちゃんと聞いてるんか……?」
「うううええええあ、はい!聞いてます!!耳の穴ほかほかしてます!」
「アホか!耳の穴かっぽじってや!」
キング周辺に流れる、この場に似合わないほのぼのとした空気に、私の頬は思わず緩んでしまった。それを出雲さんは目ざとく見つけ、笑顔で威圧してくる。
「はぁ、まずは手当てが先や。みんな怪我した所だし。坂東、エリック、手伝って」
「うっす」
手当てが先って、もう十分説教した後……。満場一致で考えた事だろう。
持ってきた救急箱から消毒液、バンドエイドを取り出した出雲さんは、にこにことこれまた不気味に笑った。カウンターの椅子に腰掛け、隣の椅子をぽんぽん叩くと、#a#おいで……。殺される、と身震いした。
「日向も日向やで。八田ちゃん達が戦い出したからって、自分も参加したらあかんやろ」
「すみませんでした……」
出雲さんは消毒液を付けながらも説教を続けた。かつてこんなにぐちぐち説教している出雲さんを見たことがあっただろうか。
この前八田さんが怪我をして帰ってきた時も、説教はしていた。しかし、ここまででは無かったと思う。
「はぁ、鎌本におんぶされて帰ってきた時は肝が冷えたわ」
「返す言葉もないです……」
私が怪我をしたのは足、というか膝。痛くて引きずっていたら鎌本さんがおんぶをしてくれたのだ。それをわかっていて正座させたのは貴方ですよ出雲さん。言いかけたがこれ以上ひどくできないと口を閉じた。
「ほんま、女の子やねんから自分の体は大切にしーや?一生残る怪我でもしたらどないすんの」
「いいい痛いです出雲さん!!痛い!!」
「我慢しい」
喋りながらも私の足を優しく持ち上げ、消毒液をもった出雲さん。痛いんだよなぁと身構えていた私に、出雲さんは容赦なしに消毒液をかけた。
それはもう盛大に。ガーゼで優しくとかではなく、容器を力一杯押し、物凄い勢いでかける。本気で痛いです!!
でもその後、バンドエイドを貼るてはやけに優しかった。いたわる様にゆっくり貼られたバンドエイドを見て、これが世に言う飴と鞭とやらか……と考えた。
「ええか日向、次八田ちゃんたちの交戦に巻き込まれそうなったら電話してきや?すぐすっ飛んで行くから」
出雲さんは、そう言い残してふてくされる八田さんの手当てに言った。突然の優しい口調に、ぽかんとしていると、アンナちゃんがぽてぽてとこっちに来た。いつ起きたの。
「出雲のあれは心配からなの……」
「え?心配って……」
「日向、出雲はじわじわ追い詰めるから、気をつけて…」
「え?え?」
なんだか意味深なことを呟いてアンナちゃんはまたキングの傍に戻って行った。
(じわじわ追い詰める……って、何を?)
((絶対わかってない……))
(あ!日向、今日の店仕舞い手伝ってや)
(あ、はーい!)
((食われる……))