音の中で囁く
その日は朝から雨だった。朝は小降りで、昼には止むだろうと考えていたが、時間に比例して雨足は強くなっていた。


「雨凄いなぁ」


小さく呟いた日向に、宗像は視線をやった。室長室であるはずのここを我が物顔で使う日向は、畳の上から外を眺めていた。


日向の視線を辿るように外をみやれば、確かに警報がでても納得なほどの雨が窓を叩いていた。


「明日の朝には止むかな」


そう独り言の様に呟き、顔を宗像の方に向ける。独り言かと思ったそれは、どうやら宗像に向けた言葉だったらしい。


「さぁ、どうでしょうね」


宗像は日向の質問にそっけなく返す。その時だ、外が白く、ひときわ明るく光ったと思うと、轟音と共に部屋が暗転した。


先程は灯りの着いたビルの窓で美しい夜景が見えていたはずの外は、どこも停電してしまったのか、たまに光が漏れているくらいでほぼ真っ黒くなった。


「雷、ですか」


宗像がぽつりとそう言った瞬間、消えていた電気が戻った。途端に明るくなる部屋に、宗像は信じられないものを見つけた。


蓑虫が、いた。いや、蓑虫の様に座布団のしたに隠れる#a#が、いた。あまりの驚きに、眼鏡を光らせたまま固まった宗像は、もう一度聞こえた轟音に意識を引き戻された。


宗像がはっ、としたと同時に、座布団の下で大げさなほどビクついた#a#。それをみて宗像は、もしかしてと顎に手を添えた。


「日向、雷が怖いのですか」


日向の近くに寄り、疑問符をつけずに宗像は言った。すると座布団のしたから、か細い蚊の鳴くような声で怖くないしと虚勢が返ってきた。


「そんなナリをしておいて虚勢何てバカですか」
「っは!?ば、馬鹿じゃないし!」


貶されて腹が立った日向は、がばっと座布団から体をだした。出てきた日向は涙ぐんでおり、唇もわなわなと震えていた。


これで虚勢では無かったらなんなのか、と宗像は内心やれやれと肩を竦めた。その後、また室内がぴかりと白くなり、轟音が部屋を包んだ。


「っひゃあ!」


奇声をあげた日向は、持っていた座布団を放り投げ、宗像の腰に抱きついた。かたかたと揺れる肩が、服越しに伝わってきた。


「こ、怖くないもん…」


こんな状態でまだ虚勢を張るのか、と呆れを通り越して清々しさを覚えた。しかし、自分に抱きつき怖くないと震える様は、なかなかに庇護欲を掻き立てる。


「そうですか」


宗像は日向の抱き上げ自分も座敷に座ると、膝に跨らせた。顔を見られたくないらしく、手で覆うのをそのままに、胸へと引き寄せた。


「では、私が雷が怖いのです」
「え?」
「だから日向、雷が収まるまで、このままで」


日向の体を抱きしめ、お互い無理のない体制で囁く宗像。その暖かい胸の中で、落ち着きを取り戻した日向は、羞恥心に顔を染めながらも、宗像の服へすがりついた。


「む、宗像さんがそう言うなら、仕方がないのでこのままでいてあげます」


宗像の背に手を回し、ピッタリとくっついて日向は、小さくそう言った。















(ところで雷っていつ頃止むんですかね)
(まだ近いので、分かりませんね)
(……宗像さん、どこ触ってるんですか)
(折角なので楽しもうかと)
(やめて!)

唄華様リクエスト


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