これの設定。
猿比古と日向は兄妹であり恋人でもあった。そんな2人は家の中ではとても甘い雰囲気でお互いに接しているが外ではそんなそぶりは全く見せないどころかむしろ周りが戸惑うくらいに冷たかった。
それは恋人になった辺りから猿比古が急に外での日向との関わりを極端に避けるようになったからだ。
「あ…これ」
朝の恒例である見送りをつい30分ほど前に済ませた日向は一通りの家事を済ませた後、リビングでテレビでもみようとソファーに腰をおろしていた。
そんな日向がリモコンを取ろうとした手の先に見つけたのは一つの封筒。それは、昨晩猿比古が締め切りがどうのこうのと奮闘しながら纏めていた書類だった。
仕事場でやるはずのそれをわざわざ持って帰ってまで家に居ようとしてくれていた事が嬉しくてにやにやしてみていたので記憶に残っていたのだ。
「持っていかなきゃ…だよね」
兄の極端な外での拒絶を知ってはいるものの、コレばかりはしょうがないと、日向は重たくなる腰をあげた。
「っえと、ここ、だよね?」
外面の恰好に急いで着替え電車を乗り継ぎ日向はセプター4のビルの前に立っていた。
「…ここの何処に猿比古いるんだろう」
兄の職場にくるのは実はこれが始めてなわけで、日向は兄の所在が全くわからなかった。
「あー、疲れた!副長マジで容赦ねーよ」
「日高が変に手を抜くからだって…」
「手を抜いたんじゃねーって!エノ!俺今日筋肉痛でさぁ、「あっ!あの!」
受付とか無いだろうか、ときょろきょろしていた日向の前を、猿比古と同じ格好をした男2人組が運良く通った。これを逃すわけもなく、日向は声をかけた。
「っえ!?あ、どちら様でしょうか?」
2人組の眼鏡をかけた方が驚いたように眉を下げ返事をした。
「あっ、えと、伏見猿比古の妹の日向と申します。えと、セプター4の方でよろしいでしょうか?」
急に人見知りを発揮した日向は目を明後日の方向に向けながらもそう言った。
「…伏見さんの妹!?あの人妹居たのかよ…」
「おい日高!…あ、はい。えと、伏見さんに御用ですか?」
「はい、忘れ物を届けに…あ!猿比古!」
驚く2人にそんなに以外かと思いつつも受け答えをしていると、後方に見慣れた顔が見え日向は途端に花を咲かせた。
が、そこではたと気がついた。
「(ヤバ、猿比古、外ではあんまり話しかけちゃダメだった…あちゃー)」
が、後悔先に立たず。こちらに気づいた猿比古は盛大に顔をしかめつかつかと足音でかく歩み寄ってきた。
「あ、えと、それじゃあ猿比古も居たしあの、失礼します!」
「え、あ、うん」
このまま何も言わず連れていかれるのは愛想が無いなと思った日向は慌てて状況を飲み込めていない2人組へと挨拶をした。
そこにやっと追いついた猿比古がちょっとこい、と日向の手を乱暴に掴み連れ去る。日向は挨拶してて良かった、と内心場違いな事を思いつつもおとなしく猿比古について行った。
連れてこられたのは何処かの資料室だった。部屋に入った途端壁に押し付けられ乱暴に息を奪われた。
「…っん、ぅ」
熱い舌が上顎を擽り声が漏れる。急だったので持っていた鞄は音を立てて落ちた。いつも時々息継ぎの為に開けてくれていた隙間が今は無くて酸素が足りなくなる。
「む、…っ、ん」
「っは、何で来たんだよ」
そろそろ頭が真っ白になって来た頃、ようやく入って来た酸素に気を取られて返事が遅れる。涙の膜を張った瞳でぼんやり猿比古を見つめれば、舌打ちをひとつして、また同じ質問をぶつけてくる。
「っ、猿比古が、これ忘れたから」
ようやく落ち着いた呼吸で落ちた鞄から書類を出す。それを見た猿比古は目を見開いてまた舌打ちをひとつ。
「悪かった。ありがとう」
何に対しての悪かった、なのかよく分からないが取り敢えずきちんとお礼を言う猿比古にくすりを微笑を漏らす。
普段人に御礼など言わない猿比古が私にはちゃんと言ってくれる事がたまらなく愛しい。
「で、何で日高と榎本と喋ってたんだ」
…言われた事がよく分からなかった。
「日高…?あ、さっきの人?猿比古の場所を聞いてたんだよ」
「メールすりゃいいじゃねーか」
あ。あー、これは、これは珍しい。うん。嫉妬、嫉妬。理解した途端また意図しさがあふれる。普段外で合わない私たちは嫉妬する、されるといった事は無いに等しい。
「猿比古、ありがとう」
「は?何お前、大丈夫かよ」
ふへへ〜、なんてだらしなく笑えばまた顔をしかめて舌打ちをひとつ。でも今はそれすらも愛おしい。
「はい、どうぞ」
「なっ、」
手元の書類を手渡すとともに頬っぺにキスを落とす。びっくりして動きの止まったのを見て急いで部屋を出る。
すぐに見つけた曲がり角の影に身を潜め、慌てて出て来た猿比古を見送る。メール画面を開いて"猿比古だけだよ"なんて、少しベタ過ぎかな?
(結局猿比古って何で外で会うの嫌なの?)
(あ?会ったら(ちゅーとかしたくなる?)
(チッ)
(ふへへ〜)
…何と無く長くなってしまった上に中身がそんなにない。