日向が風邪をひいたと聞いたのは今朝で、今日は仕事に全然身が入らなかった。
「伏見、神田の見舞いに行ってやれ」
だからそんな副室長の言葉にわずか0.1コンマで了承した。
ーガチャ
インターフォンを押してへたに起こすと悪いだろうと思ってあらかじめ持っていた合鍵で入った。
買ってきた薬と果物を置いて寝室に向かう。日向はそこで寝ていた。
規則正しい寝息に、落ち着いているのだと少し安心する。
ガラにも無く心配していたのだなとしみじみ思った。日向と居ると自分が自分じゃないような気がする。いつもなら誰かが風邪をひこうが自分には関係無く、ましてや見舞いなんてめんどくさい事するはずがなかった。
「…ん」
そんな事を考えているうちに、日向がわずかに目を開いた。
「…猿比古……?」
「淡島さんに言われて来た」
「そっ…か、ありがと」
そう言ってふにゃりと笑う日向、心なしか顔がほんのり赤いからまだ熱はあるのだろう。
「なんか食うか」
「ううん、お腹減ってない」
「今日なんか食ったか」
「食べたよ」
…嘘だ。食べたと言った時あからさまに視線をそらした。嘘着く時の癖だ。
「…はぁ、りんご買ってきたからそれ食え」
「いらな「食わないとよくなるもんも良くならないだろ」
「む…」
買ってきたりんごを摩り下ろしてコップに水をいれて薬と一緒に持っていく。日向は座って待っていた。
無言で隣に座ってりんごを渡した。
「…ありがと」
りんごを淡々と口に運ぶ日向を見つめる。
「…ご馳走様」
食べ終わった日向に薬を渡す。いやそうな顔をしてなかなか飲もうとしない。
「猿比古、何で粒じゃないの…なんで液体なの」
「わがまま言ってんじゃねーよ早く飲め」
何と言っても飲もうとしない日向。仕方なく日向から薬を奪って口に含む。独特の苦味に顔をしかめる。
「なっ、猿比古、猿比古が飲んでどうすんっ、ふ」
ゆっくりと合わせた唇から薬を渡す。こく、と飲む音を聞きながらコップを手に持つ。
ちゅ、とリッピ音を立てながら口を離し苦味を水で流し込み日向を見る。真っ赤な顔を隠すようにそっぽを向いていた。
「風邪移ったら、どうすんの」
「…、そん時はまた看病してもらう」
「粉薬持って行ってやる」
後日見事に移った風邪により粉薬を飲まされたのはいうまでもない。
(キ、キスなんかするから)
(したかったから)
(なっ、猿比古のバカ!)
……なんというぐだぐだ!