「一本!」
「うわぁ!また負けた!」
ここはセプター4の道場。稽古も終わりかけの時に淡島副長に勝負を挑んだわけだが、もちろん勝てるわけなんてなく開始5秒程で額を強く打たれ敗北。
少し揺れる頭で淡島副長を見上げる。
「13戦中0勝13敗」
「もうそんなになるか」
「悔しいー!」
悔しがる私をよそに淡島副長は愉快そうに今日はここまでと言って去っていった。
「日向ちゃんも懲りないね〜」
「女のプライドってやつか〜?」
なんて笑交じりに口々に言って回る他の団員達に一喝し私は足速に室長室へ向かう。もちろん今日の報告のためだ。
「室長!」
勢い良くバァン!とノックもなしに扉を開け室長室に入る。
部屋の主は優雅に椅子に座ってお茶をすすっていた。
「そろそろ来ると思ってましたよ」
「でしょうね」
にっこり笑う室長に負けじとにっこり笑ってそう返す。
「今日は勝てましたか?」
黒い笑みを絶やさずそう聞いてくる室長に腸が煮えくり返りそうになるがそこは理性で抑える。
「勝てません!てか勝てるわけありません!」
「おや、そうでしょうか?貴方は私に淡島副長なんてすぐ倒します、そう言いましたよ?」
ああ、確かに言った。言ったけども!
「あ、あれはまだ淡島副長があんなに強いとは知らなかったから」
「へぇ、貴方は人の見かけで強さを図りますか」
「うるさいなぁ!だってあんなけ餡子ばっかり食べてる可愛らしい人が強くなんて反則です!」
「…あの餡子を食べられるのは相当な人ですよ」
やたら眼鏡を光らせてそう言ってくる室長。その顔は心なしか怯えてる様にも見える。
違う違う。そんな話を今しにきたわけではない。
「それより、私は抗議します!淡島副長に勝てなんて条件絶対無理です!」
「始めは納得してたでしょう」
「だからあれは!…あぁもう!あの時の私はどうかしてたんです!し、室長が…!あんなことしなかったらもっと冷静に考えれて…っ!」
あの時のことを思い出せば今でもカァッと顔が熱くなる。
室長がキ、キスなんでするから…!
「でも貴方は一度は納得した…今更捻じ曲げるのはどうかと思いますよ?」
「ぐっ、そ、それは…その」
正論を言われて押し黙るしか無くなる。でも屁理屈でも言ってないとやってられない。
「ちゃんと約束通り貴方が淡島くんに勝てたらもう何もしませんよ」
そう笑交じりに言う室長を直視できない。
「うぅ…今に見てなさい!淡島副長なんてすぐに倒してみせますよ!」
「ええ、それまでに私は必ず貴方を落としてみせますよ」
「なっ、ぜ、絶対落ちませんよ!室長のバーカバーカ!」
もうすでに真っ赤な顔を隠す様に子供っぽい捨て台詞をはき室長室に背を向ける。
歩きながらも私の頭を占めるのは室長で、案外落とされかけてる事実に、私は気づかない。
(貴方と私)
(先に勝つのは、どちらでしょうか)
…宗像さんは恥ずかしいことを平然と言いそう