出来心と芸術




ちょっとした出来心だった。母と行ったショッピングモールで、虫の形をしたグミを作れるキットを見つけたのだ。


そこで真っ先に頭に浮かんだのは、涼太の嫌いなもの。ミミズである。私は早速購入し、部屋で夜な夜なミミズを作った。はっきり言って作ってる最中は気分が悪かった。


試行錯誤を繰り返し、漸く完成したグミ改めミミズは、なかなかのリアル感を出していると満足できるものだった。



その作ったミミズだか、今は涼太のタオルの中に入っている。



朝、筆箱に入れて授業中叫んでもらおうかとも思ったが、涼太は机の上に筆箱をだしておらず、しかも今日に限って机にずっといたのだ。


除け、どっかいけと眼力で伝えてみるもキモいと一括された。腹が立ったのでとりあえず足を踏んでおいた。


そしてミミズを仕込めなくてイライラしていた放課後、チャンスはやってきた。いつもは女バスの体育館でやる部活後の自主練、最後の悪あがきにと男バス一軍体育館でやっていた時だ。


「青峰っち!1on1!」


涼太のタオルが無防備に落ちていた。もうここしか無い!そう思った私は急いで部室にある鞄からミミズを取り出しタオルに仕込んだ。


「名字、何をやっているのだよ」
「おっと緑間くん、邪魔しないで欲しいのだよ!涼太のタオルの中にグミを入れているるのだよ!」


隣で汗を吹きながらドリンクを飲んでいた緑間が、真似をするなと睨んで来る。つくづく下まつ毛長いなと思う。よこせ。


無事にグミを仕込み終え、さっと緑間の横に座る。あくまで練習に疲れて休憩している体を装った。


早く見つけてくれないかなあ。にやにやしながら青峰にからむ涼太を眺める。お前のそのシャララ顔をゆがませてやる!


「名前、何その顔、ニヤニヤしててキモいっス」
「……っ」


言い返しそうになるのをすんでで飲み込む。後で叫ばすんだからね、今は我慢してやろうじゃないか。


ぐっ、と耐えた私を見て、さっきまで虫けらを見る様な顔をしていた涼太は、きょとんとした顔になった。


「……?」


さぁ、早く!早くタオルで汗を拭け!! 視線を緑間の下まつ毛に固定しながらも、意識は涼太に全力集中。やっと涼太はタオルを持ち上げ、首に当てた。


途端にぽとりと肩に落ちるミミズ。何だ、と眉を寄せ方に乗ったミミズを目の前に掲げる。


「……はぁ」


あ、れ? 大声で叫ぶと思った涼太は、あろうことか私の力作をぽいっと投げ捨てた。その先にいた青峰がうおっと飛び退いたが、ミミズを見て大爆笑しだす。え?え?


その瞬間、視界に迫る鮮やかなオレンジ。


「え、ぎゃあああああ!!っぶねえ!え!危ない!」
「名前、覚悟は出来てるっスか?」
「え、え!ちょ、待って待って!男子の豪速球は当たったら痛いよね!受け取るにしてもそんなポンポン投げられたら無理かな!」


突然飛んできたボールは、間一髪でよけれたが、後ろの壁に盛大な音を立てて当たった。マジで危ない!これ当たったら折れそう怖い!


「っほんとやめて!危ない!DV!?DVとかやだよ!つかなんで驚かないの!?ミミズだよ…あ」
「やっぱ名前っスか!!あんなへったくそでよく騙せると思ったっスね!あれはミミズじゃなくて毛虫だよ!!可愛い方のな!」


走りながら抱えたボール、拾ったボールを高速で投げて来る涼太に必至で逃げる私。


「ぎゃはははは!!名字、お前これっ!顔だけグロいんだけどマジキモい!!」


転がり回り、腹を抱えて大爆笑する青峰の横の力作を一瞥する。ミミズの顔は分からないから適当に黒でグチャグチャにし、体は真ん中だけ色が違ったよなと思って玉の連なった2個めだけをオレンジにし、あとはピンクにした。


「ミミズじゃん!!どう見てもミミズじゃん!」
「良い加減美術的センス皆無な事自覚しろ!あれは百歩譲って毛虫っス!」
「違うもん!てかやめて本当に怖い!」


尚も飛んで来るボールを回避しながら涼太と言い合う。私の一夜漬けの力作は、紫原がキモいといって捻り潰した。くそ!後で覚えてろよ!


「つーか名前ごときが俺を騙そうなんて100年早いっス!」
「何だそれ!100年とか死んでるわ!」


結局、私達の言い合いは、練習の邪魔だと赤司に追い出されるまで続いた。捻り潰されたミミズちゃんは、責任持って涼太の鞄に居れておいた。





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