彼氏の言い分 「ほほはひばは」 「名前、何言ってるかわかんないっス」 「ひょっひょまっへ」 口の中の肉まんを急いで咀嚼する。今は放課後、部活の終わった私と涼太、青峰、黒子、桃ちゃん、紫原でコンビニに買い食いに来ていた。 「っん、この間は大変だったね」 「この間……、ひったくりの件ですか」 「そーそー」 涼太の一軍昇格おめでとう会でひったくりと遭遇した。その時は緑間もいてひったくりを捕まえたのは記憶に新しい。 「その時は涼太も黒子のこと疑ってたしね〜。短期間でこの変わり様だよ」 「名前と違って俺はちゃんと仲良くする人は見極めるんスよ!」 「くそ涼太!それどういう意味だよ!」 「2人ともまた喧嘩ですか、やめて下さいよ」 にこにこ笑いながら毒を吐く涼太と、取っ組み合いになりそうな私の間に黒子がすっと入る。涼太が黒子っち黒子っちと煩くなったのはほんの数日前。 確か2軍の同伴で練習試合に行った後だ。それまで黒子のことをやたら見下していた涼太に、内心ひやひやしていたので安心したとかは秘密だ。 「まぁ、そんな事はどうでも良いんだけどさ。それより紫原よ、さっきから食べカスがぽろっぽろ落ちて来てるんだけど」 「ん〜?」 上からパラパラと降ってくるまいう棒のカスをぱっぱと払いながら紫原と距離をとる。ん〜じゃないよん〜じゃ。 さっと涼太の方へ行けばこっちにカスを飛ばすなと距離を取られた。仕方ないから誰とも近く無い位置で頭に着いたカスを払った。 「名字さん、まだ着いてますよ」 一通り払い終え、ふぅと息を吐いた瞬間、肩を優しく叩かれる感触と、黒子の優しい声が横から聞こえて来た。 「く、黒子……!マジでイケメン!見習え涼太!」 「飴と鞭は使い分けるっス」 「さっきが飴の使い所だよ!」 黒子の優しさに全私が感動した。お前がやるべき事なんだよと珍しく青峰が涼太につっこんでいた。 「あっ!皆もう8時半だよ!」 「やっばい!お母さんに怒られる!」 桃ちゃんの声にそれぞれが帰る準備を始めた。帰る準備と言ってもただ置いていた鞄を拾うだけだが。 じゃあバイバーイ!また明日ね! と手を降って皆とは逆の方向へ走る。私だけ家の方向が違うのだ。解せぬ。 「黄瀬くん、名字さんを送っていかなくて大丈夫なんですか?」 「あー、大丈夫っスよ。こっから名前の家近いし」 名前の居なくなった帰り道、黒子が隣を歩く黄瀬に問いかけた。黄瀬の返答に、遠かったら送るのかと新たな疑問が生まれたが変わっていても2人は恋人同士。聞くまでもないかと口を閉じた。 「ほんと黄瀬ちんとあだ名ちんって変わってるね〜」 「黄瀬なんか彼女にはベタベタしそうなのにな」 「そっスか?まぁ、名前だけっスよ」 黄瀬にとって、変わってるねは言われ慣れたものだった。名前と黄瀬のやりとりをみた後、関係をきいた者は大体そう言う。 たまに本当に好きなのかなど首をつっこんで来るものもいた。でも黄瀬はその質問をされた時、決まってこういうのだ。 「あっ、そういえばね、名前ちゃんきーちゃんがテツくんを疑ってる間ずっと心配してたんだよ?涼太は分からずやなだけで悪気があるわけじゃないから、邪険にされても嫌わないであげてねって!」 「まぁ、俺愛されてるっスからね」 黄瀬の言葉に、周りの一同は顔をしかめた。喧嘩ばっかのくせに惚気かよと青峰が呟いた。 [*前] | [次#] [戻る] |