恋のお味はどうですか?
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昔から神田はクールだね、ってよく言われた。


クールの意味がかっこいい、なら良かったものの私の場合は表情がない、だった。


加えて女子にしては高い身長、切れ長の目、着る服は黒がベース、髪も黒。そんな条件が揃いに揃って、周りからは関わりにくく怖い人、などという不名誉な称号を貰った。


もちろん私はそんなことは望んで無いし、はっきりいって迷惑だった。


一度普通に接してくれて構わないと言ったことがある。でも、それが逆に怒ったと思われたのか、更に遠ざけられた。





だからこうして私を遠ざけた一人一人を殺して回っている。





なんて言っても誰も理解なんてしてくれないんだろうな、なんて目の前に広がる深い紅、真ん中に横たわって腹に包丁を加えたままおぞましい顔の元クラスメイトを見ながら思う。


別に理解して欲しいとも思わない。されなくても悲しくなんてないし私を理解してしまったらこの世からはいらない人と認識されるだろう。


軽蔑されたって構わない。私は自分がどれだけ最低なことをしているのかちゃんと理解している。この行為がただ構ってもらえなくて、駄々をこねたのに無視されて必死に自分に気づいてもらおうとして行なっている愚かなことだということも。



__孤独でない人間などこの世には存在しない。



あの人が呟いた言葉を思い出す。でも私はそうは思わない。唯一あの人の意見で賛成出来ないのがこの言葉だ。

「帰ろう」

目の前の光景に見飽きて、一人そう呟いた。








冷たい廃棄区画をひたり、ひたりと歩いて、見慣れた建物にこっそり入る。上層部の今では珍しい鍵付きの扉を開いて中にはいれば、リビングの方からカチャカチャと皿の音がする。


たぶん紅茶でも入れているのだろう。ハーブ独特の刺激的な香りがする。


私はまずこの血濡れた格好をどうにかしようと脱衣所に入る。軽くシャワーを浴びてタオルを巻いたまま髪を乾かす。


「おかえり」


急に背後から声がかかり、少なからず驚いた。この人はいつも唐突だ。部屋の主なのだから文句は言えないが、脱衣所にノックもなしにはいるのは如何だろうか。


「ただいま。槙島さん」
「今日は、何人目だったかな?」


私と槙島さんの関係は、言葉では表しにくい。簡単にいうと犯罪者と傍観者、だろうか。


だから、私たちの会話はいつもその類の話から始まる。


「さぁ、もう数えるのはやめました」
「君の飽き性には感服するよ」


そう言って槙島さんは綺麗な、いや異質な目を細めた。一体いくつのものをその目で見て、切り捨ててきたのだろう。


「あぁ、紅茶が入れてあるんだ。リビングにきてくれ」


槙島さんが消えて行った扉を数秒みつめ、もそもそと服を着た。紅茶は、なんのハーブだろうか。なんて考えながら、槙島さんが通った道を私も通る。


リビングの真ん中、ポツンとあるテーブルとソファー。槙島さんが座っているとなりに座り、紅茶を啜る。甘い。





「女性の入っている脱衣所に、ノックもなしに入るのはどうかと思いますよ」


言ってからああ、話題の選択誤った…と気づいた。


槙島さんにこの手の話をしても冷静に返され、逆にこっちが恥ずかしくなって終わる、と思い出した。一足遅かった。現に今だって、それ以上の事を何度もしているのにそれくらいで恥ずかしがるなんて君は可愛らしいね。なんて言ってこっちが赤面するハメになっている。何だか複雑な気分だ…。


そんな不満が顔に出て居たのか、槙島さんは急に喉の奥でくつくつと笑った。それにまた羞恥心を煽られて、誤魔化す様に紅茶を飲み干した。


うん、甘い。だけどどこか、にがい。


紅茶に気を取られていたら、急に視界が暗くなった。


びっくりして顔をあげると、槙島さんが至近距離にいて、前髪をかき上げられた。



「槙島さん…?」


ゆっくりと近づいてくる顔に、恥ずかしくなって目を閉じる。


短期間でこんなに恥ずかしがってたら心臓が持たない、なんて一人で心ごちる。紅茶の味がまだ口に残って甘苦い。


ゆっくりと降りて来た唇は、私の鼻梁に柔らかくキスを落として離れて行った。



「…君は、小さくて柔らかい」




そう呟いた槙島さんに、なんだそれ小動物か、と内心つっこんだ。


ゆっくりと目を開けて槙島さんを見据える。
さて、この人が私に興味を持っている間に、心ゆくまで楽しもう。




甘苦い恋の味を。









…鼻梁へのキスは愛玩。そんなお題の元作成しました。


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