1.婚姻




____捨てられた。それは少女がそう理解するのには簡単すぎる言葉だった。



ここはリアンバル帝国。少し大きな、独立国だった国だ。国土はそれなりに大きく、海に囲まれた島国だ。


独立国だった、というのはつい先日、今急速に勢力を伸ばしている煌帝国の傘下に下ったからだ。


はじめは抵抗していたが、煌帝国第一皇子、練紅炎の巧みな話術、圧倒的な戦力を見せつけられあっさり屈服した。


そんなリアンバル帝国の第一皇女が少女、鱗名前である。


といっても産まれたのがたまたま早かっただけであって名前の母は遊女であった。そのため周りからは皇女として扱われたことの方が少ない。


煌帝国の御一行が帰られて暫くしたある日、名前は御義母様に王座まで呼び出された。


その時点で嫌な予感はしていた。案の定その予感は的中する。


「名前、煌帝国に嫁ぎなさい」


その瞬間、嗚呼、捨てられた。そう思った名前は間違いでは無いだろう。


義母の話によると、煌帝国の傘下に下った国は、忠誠を誓うため何かをしろと求められたようだ。そこで考えた結果、第一皇女である名前を煌帝国に嫁がせ、一生添い遂げるということを示す事になったらしい。


傘下に下った国が皇女を嫁に出すのはとくに珍しい事ではない。だけど、第一皇女を嫁に出すのはかなり稀な事だ。皇女が1人だけならまだしも、我国には皇女が5人もいる。


我が国は戦争に負けての降伏ではないのに、わざわざこんな大業なことをする必要もない。これで捨てられたわけじゃないと言えるものか。私は損害の出ない丁度いい献上物であったのだ。


しかし心の何処かにやっとこの堅苦しい宮殿から出られると、喜んでいる自分がいることに名前はきづいた。


王座をでて自室へ向かう。すると従者である藍林が部屋の外で待っていた。


「私もお供いたします姫様。どうか、どうか連れて行ってくださいませ」
「でも藍林、煌帝国ではそんなに良い待遇は無いかもしれない…もしかしたらひどい扱いを受けるかもしれないのですよ…?」
「それでも構いません!この藍林、一生を姫様に捧げる覚悟などとうの昔に出来ております!」
「藍林、ありがとうございます」


従者だけは恵まれていたな…なんて不謹慎なことが名前の頭をよぎった。




出発は明日正午、到着は6日後の明朝の予定だ。相手は練紅炎。この国を傘下に納めた張本人である。











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