12.魔法




喉が渇いて仕方がない。


「っひ、……ぁ、んん」


四つん這いになり腹はどことも触れてない筈なのに、寝台の上は酷く熱くて、熱を逃がす術は無いのかと名前は呆然とした頭で考えた。


どうにか声を抑えようと手元にあった枕を引き寄せる。紅炎の慣れたように行われる愛撫に、慣れない名前は踊らされる。


「っあ!ふぁ…っんん、い」


はしたないが枕を噛もうと名前が口を開いた瞬間、十分に濡れぼそった名前の膣内に、紅炎のあついそれがみしみしと入り込んで来た。


まだ数回しか受け入れたことなく、慣れてないそこは、紅炎を収めるには狭すぎて、痛みが脳裏に火花を散らす。


「……っ狭いな」
「はっ、こ、えん様……っ、あ」


痛くて逃げようとする名前の腰を紅炎はしっかり捕まえる。さらに奥へと腰を進めれば、苦しそうな呻きを上げた名前が紅炎を締め付ける。


名前を無理矢理抱いてから紅炎はたまにこうして自分を慣れさせるように優しく抱いてくる。といっても初めてから21日間で、回数は5回。不定期なそれは、何時も名前が気を失うまで続けられた。


初めは必死に抵抗して居た名前だが、抵抗しても意味が無いことと、むしろ行為が酷くなると分かってからは大人しくなった。


「……っは、は、っあ……ぅ」


挿れてから暫く、名前が慣れるまで動きを止めたまま様子を伺う紅炎。慣れてきて、喘ぎが段々と小さくなると、ゆるゆると腰を動かす。


「っうんん!……ふぅ、ぅっ」


まだ痛みを伴うも、だんだんと快感というのか、よくわからない感覚が大きくなっていくこの行為に、名前はいつも胸がきりきりと痛んでいた。好きな人としかしない行為、そんな夢は見ていなかったが、相手が自分をどう思っているかわからないままの行為は、辛いものがあった。


「っひ!?……あ、ぁあ!こ、炎様っ、待って……!」


突然奥にごつりと当たった事で、体中がぶわりと熱くなる。その後を電気が走る様に快感がぴりぴりと押し寄せ、目の前がちかちかする。


激しくなった律動に、名前は待ったをかけるように、手を紅炎の方へのばす。しかしそれは、あっさりと紅炎に絡め取られ、手から、繋がった所から紅炎の熱が流れ込んでくる。


自分の熱ですら処理しきれていないのに、紅炎の分まで任された名前は、ただ有り余るそれを、体の中で弄んでいた。



















ぼんやりと窓の外を眺めてから、締め付けられる胴に視線を移した。名前を抱いた次の朝、紅炎は必ず初日同様、名前の身支度をする。


いくら良いですから、とかやめて下さいと言っても、これもやめてはくれなかった。侍女に任せれば良いものを、なぜそんな事をするのか。それは今だに名前の不思議に思うことだった。


ここに来て今日で22日目。この国の大体の事は把握できた。それでも、紅炎の事だけは、いくら考えても理解できないことばかりだった。


自国で紅炎と顔を合わせたことは、ましてや話した事もない。そんな初対面である名前を、こうも何度も抱き、甲斐甲斐しく身支度なんてできる物なのだろうか。皇子とはそういうものなのだろうか。


「紅炎様、お時間が迫っておられます」


後は装飾を帯につけるだけ、そんな時扉の向こうから、紅炎の従者の声が聞こえて来た。確かに、朝の軍議の時間が迫っていた。


装飾だけなら自分でできるな、と考えた名前が、紅炎に後は自分でできます、と声をかけるが、紅炎は、従者にすぐ行くと告ると名前の腰に手を添えた。


「あのっ、紅炎様……!」
「良い。これくらいすぐ終わる」


言ったとおりすぐに装飾はつけ終わった。紅炎は、身支度の終えた名前を満足気に眺めると、行ってくると一言告げて部屋を出て行った。


「……どうして」


紅炎の居なくなった部屋で、ぽつりと溢す。当初名前が立てていた、ひっそりと生きていく計画なんて物は、来た当日に打ち砕かれた。


それでも、紅炎とここまで密着して暮らすとは思って居なかった名前は、紅炎と関係を持つたびに、言いようのない感情が胸を締め付けた。


「名前様、紅覇様がお呼びです」


椅子に座ってぼんやり天井を眺めていた名前に、ノックと共に藍林が声をかけた。それを聞いた名前は、途端に意識を引き戻し、急いで部屋を出た。


この間、紅覇に魔法を教えてくれと頼んでから、紅覇は名前を呼びつけるようになった。もちろん紅炎が軍議やら訓練やらで居ない時を見計らって。


それは、忙しい紅覇に名前が提案したことだった。魔法は、紅覇様が気が向いた時で良いです、と。実際教わるのは紅覇の従者からなのだが。


「紅覇様!」
「あ、名前!今日は純々が講師だよ〜」


藍林についていくと庭の奥、木で廊下からは隔離された池の傍に、紅覇とその従者である純々が立っていた。


名前が駆け寄ると、紅覇は純々に任せたよ、と一声かけ木の上に登って行く。名前が魔法について教わっている間、紅覇はそばで眺めるか藍林の髪をいじるか、何処かさがして寝ているかだった。


「よ、よろしくお願いします」


名前は控え目な声で言いながら、純々にお辞儀をする。その態度に、純々はうやうやしくし無くて良いのですと慌てる。


しかし、これは毎回行われるやりとりで、純々は言っても名前は敬語も抜けない、お辞儀もやめないなかなか変な所で頑固である事を理解していた。


「今日は少し実践を交えましょうか」
「……っ魔法が使えるのですか!」


実は名前は、この講習が始まってから、まだ魔法を使ったことがなかった。というのも、名前の体力があまりに軟弱で、体が使う魔力を大幅に制限していたからだ。そのため今までやって来たことは大量の運動、それと少しの魔法についての実戦的知識の伝授だった。


名前は自国で魔法をかじっていたが、それはあくまで基本的なものだけ。実戦で使える様な魔法はほぼなかった。


「名前様?聞いていますか?」
「あっ、すみません。魔法が使えると思うと浮かれてしまって…」


この日は名前の得意な水魔法を中心に練習が行われた。傍にある池の水で形を作ったり。どの魔法も体力のなかった今までとは比べ物にならないくらいの効果が出て、名前は一つ魔法を使うたびに飛び跳ねて喜んだ。


この国に来て、初めて楽し気に笑った。


紅覇の眠る木の下で、名前を眺めていた藍林は、そのことに目を丸くした。藍林に向かって微笑む事はあっても、安心させようとするものだったから。


自然に漏れた笑みをみるのは、自国でも珍しいものだったのだ。


「藍林!見て!私がこの水を作ったのですよ!」


名前は魔法で作った水の鳥を手の平に乗せ、ほころんだ顔のまま、藍林の目の前で飛ばして見せる。


名前の手から飛び立った鳥は、池の上を優雅に飛び回り、次第に形を変え馬へと変化した。そのまま藍林の元へ駆けて来ると、今度は小さなリスへ変化する。


名前はずっと手を胸の前で祈る様に組み、笑顔で水を操っていた。自分の命令通り水が様々な動物に変化する様を、きらきらした目で追いかけた。


「藍林、魔法とは素晴らしいものですね!リアンバルで使っていたものとは大違いです」
「はい、本当に」


操っていた水を池に戻し、名前は感動を口にする。すぐに純々に、次はどんな魔法を教えてくださるのですかと詰め寄っていた。


詰め寄られた純々は、次に名前と相性の良い、音魔法の説明をしながらも、内心驚きが隠せなかった。いくら体力がついて来たからといって、あそこまで見事な水魔法、初心者にできる物では無いと。


先程名前が作り出した動物達は、毛の一本一本まで緻密に表現されていた。動きも速く、滑らかで見事にその動物が再現されていた。


それによく考えれば、ほんの少しかじったくらいでルフが見える様になる事自体あり得なかった。ジュダル殿が一目置くのも頷ける、純々はそう名前を評価した。


「名前、純々、そろそろ終わろう、炎兄の軍議が終わっちゃうよ〜」
「も、もうそんな時間ですか……!」


いざ、風魔法を使おうとしたそんな時、寝ていた紅覇が木の上から終了の声をかけた。思いの外水魔法で時間をとっていたらしい。


「あの、純々さん、今日もありがとうございました」


ぺこりとお辞儀をする名前に、純々がまたも辞めて下さいと慌てるが、これも毎回行われる事であり、今回も純々はやめてくれない事を分かっての型式的な静止だった。


「紅覇様も、またよろしくお願いしますね」


名前は、飛び跳ねて若干崩れた衣服を藍林に直してもらい、紅覇にもお辞儀をする。良いからもう行きなよ〜と紅覇は軽くあしらう。


紅覇と別れ、藍林と共に部屋に向かう途中、名前はずっと魔法を使っている時の気持ち、感覚を藍林に嬉々と話していた。そんな名前を、藍林も微笑ましく眺めながら、相槌をうっていた。






|≫
back



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -