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守りたい気持ち [ 42/45 ]



浮上した意識はまどろみ、視界をぼやけさせる。


「う…わ、たし…っい、!?」


ぼやけた視界には白が映り、それを認識したのと同時に左足にとてつもない激痛が走った。
飛び跳ねるように身体を起こして左足を見ると何重にも包帯が巻かれていて、その包帯には血が少し滲んでいるのが分かる。

わたし、昨夜…。
よく回らない頭で記憶を辿り、昨夜のことを思い出してサーッと背筋が凍った。


「セブ、っセブルス…!」


ここはどこ。まさか捕まったの?セブルスは…。
パニックになってひたすらセブルスの名前を叫んでいると、バン!と大きな音を立てて誰かが走ってくる音が聞こえた。


「−…スズネ!」
「ぁ…セブ、ルス?」


聞き慣れた大好きな声。その声の主はギュッとわたしを抱き締めてくれた。

あったかい…良かった、セブルスが無事だった。
ただその事実が嬉しくてぽろぽろと涙が零れてセブルスの肩を濡らしていく。


「大丈夫だ、スズネ。ここはホグワーツだ」
「ホグワーツ…なんで、」
「昨夜あの屋敷からスズネの姿現しでここまで飛んできた」


わたしから身体を離したセブルスは頬を流れる滴を人差し指で掬って、そのまま頬に手を添えた。

冷静になって辺りを見回してみると、ホグワーツの医務室とは違う場所のよう。
窓が無くて、わたしが寝ているベッド以外のベッドも見当たらない。


「ここは…」


呟くのと同時に、また扉の開く音が聞こえて誰かがこの部屋に入ってきたのが分かった。


「目が覚めたようじゃの」


そう言って優しく微笑むのは、アルバス。

…そうだ、アルバスに話さなきゃいけないことがたくさんある。
きっとわたしがホグワーツに飛んできた経緯はセブルスが話してくれただろうし、わたしが話すのはあの屋敷でセブルスと再会する前までのことだ。


「スズネ、病み上がりですまんが話せるかね?」


コクリ、と小さく頷くとセブルスが手を握ってくれてホッと息を吐いた。






それからわたしが屋敷に連れて行かれてからセブルスと会うまでのことを話すと、アルバスは何かを考えるように難しい顔をする。


「スズネ」
「は、い」
「その男の名は、ヴォルデモートと言う。マグル生まれや半血の魔法使いの抹消を目論んでいる集団の中心人物じゃ」


やっぱりそうだったんだ。

底知れない闇を秘めた彼の双眸を思い出すと、ブルリと身体が震える。…それくら恐ろしい人だった。


「奴は君を狙っておる」
「…わたしの魔力が強いから?」
「一番の理由はそうじゃろう。奴はスズネが自分の元へ来ればより円滑に目的が達成されると思っておる」
「そんなようなこと、あの人も言ってた…」
「そうじゃろうとも。故にスズネ、君は抗わねばならん」


アルバスにギュッと手を握られ、向けられたアイスブルーの瞳は力強い。


「君の左足、それには特殊な闇の魔術が施されておる」
「闇の魔術…」
「しかしその術が、君にどのような影響を及ぼしているのかが分からぬ。だがそれについては出来る限りを尽くして調べているところじゃ」


ズキズキと未だに痛む左足に手を添えると、アルバスが杖を振ってシュルリと巻かれていた包帯をとった。

そこに刻まれていたのは足首からふくらはぎの半分まで、グルリと巻き付く蛇。
まるで刺青のようなそれは生きているかのようにも見えた。

気持ち悪いそれに、ウッと顔を顰めているとアルバスは再び足に包帯を巻いてくれた。


「スズネ、君があちらが側に捕らわれるような事態だけは何としても避けなければならない」
「…そうだよね。だってわたしの魔力を悪いように使われたら、」
「一番は、スズネが大切だからじゃよ」
「…えっ」


アルバスの表情が難しい顔から、優しい微笑みに変わる。


「殺人を犯すことに何ら抵抗もないような奴らじゃ。そのようなところに放り込まれれば君が苦しみ傷付くのは考えれば分かる。用済みになれば殺されるやもしれん」
「………っ」
「我々もスズネを守るために尽力する。だが君も、自分自身そして自分の大切な者を守れるように強くならねばならん」


魔力が強いだけじゃ、何の役にも立たないってことは今回のことでよく分かってる。
自分だけじゃない、セブルスやアルバス…他にも大切な人はたくさんいる。
その人たちも守れるようになるには、この魔力に伴う闘い方を学ばないといけないんだ。


「とりあえず、スズネは何か異変があればすぐに知らせるようにしなさい。その印が何か分からない以上はの」
「うん、分かった」
「それから今回の1件についてはくれぐれも内密に。他の生徒たちに漏らすことのないようにするのじゃ。セブルスもじゃぞ」


わたしとセブルスがコクリと頷いたのが見えると、アルバスは満足したように深く頷いた。


「訓練の日取りは追って伝えよう。場所はここ、必要の部屋で行うことにする」
「え、ここって必要の部屋だったの!?」
「っいきなり大きな声を出すな!驚いただろう…」
「あ、ごめん。だって必要の部屋がホグワーツにあるとは知ってたんだけど実際に入るのは初めてだったから…」
「はあ…まったく。緊張感のない…」


呆れたように笑うセブルスに、わたしもニコリと笑いかけた。
一時はどうなることかと思ったけど、とりあえずはこうして無事に(?)ここへ戻ってこれたことが素直に嬉しい。

だって本当にあのときは必死だった。自分も、そしてセブルスもわたしのせいで殺されちゃうって。
そんなことにさせなうように、わたしはこれから強くなる。絶対。


「どれ、そろそろお邪魔な老いぼれはお暇しようかの。君たちの荷物は既にホグワーツへ送ってきてある。もうすぐで食事の時間でもあるからそれまでには大広間へ来なさい」
「はーい!」
「っスズネ!まだ完全に治ったわけじゃないんだ、大人しくしていろ!」
「…はーい」


ペチリと額を叩かれて、ベッドへと倒れれば、アルバスの愉快そうな笑い声が聴こえた。

お腹減った、って言ったらまたセブルスに緊張感がないって怒られるかな。
そんなことを考えながら、アルバスのいなくなった部屋で本を読み始めたセブルスを見つめていた。


「ねえ、セブルス」
「どうした?まだどこか痛むか?」
「ううん。…あのさ、わたし…セブルス達のこと守れるように強くなるからね」


本から目を離したセブルスは、わたしの頭へ軽く頭を乗せて小さな溜め息を吐く。


「…こっちのセリフだ、ばか」


そう呟いて顔を伏せたセブルスの表情は見えない。
ひょこりと顔を覗き込みたかったけど、思ったより身体への負担は大きかったみたいでそれは叶わず、わたしは再び眠りについてしまった。



(大切な人を傷付けさせない為には)



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