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闇に染まる聖夜 [ 37/45 ]


***


どんな状況なんだろう、これ。


「あちらの色がいいかしら?いやでもこちらも…。あれも捨てがたいわ…!」


椅子に縫い付けられたわたしの目の前で、様々な色と種類のドレスと向き合う美女。
マルフォイ家の屋敷の中へ案内されたと思ったらすぐにひとつの部屋に案内されて、そこで彼女とは初めて顔を合わせた。

そして一気にボッと顔を赤く染めた彼女は興奮したようにベラベラと饒舌に何かを喋りながらわたしの手を痛いくらいに握り、今はかれこれ40分以上もわたしがパーティーへ着ていくらしいドレス選びに難航しているところ。

ドレスならスラグクラブのパーティーのときに着たやつがあったのになあ。
それを持ってこれば彼女もこんなに悩む必要ないのに、なんて思うけどそもそもこのパーティーへの参加は”異例”なことだしわたしが何の準備もできていなくて当たり前だ。

何もしないで待っているのも退屈になってきたわたしは、近くにあった黒のドレスを手に取ってジーッと眺めてみた。


「…スケスケだ」


肩出し、背中出し。
丈は短くないみたいだけど、太腿から踝(くるぶし)にかけては透けていてレース越しに肌色が見える。

うわ、こんなの着れるわけない…。


「あら!それがお気に召したの?それならそれにしましょう!きっと貴女にピッタリだわ」
「…え、ええ!?」


いや、わたしより絶対お姉さんみたいな美人さんの方が似合うってー…!

嫌々と必死に首を横に振るわたしとは正反対に、彼女はニッコリ笑顔で近付いてくる。
有無を言わせない彼女のオーラに、わたしには”諦める”しか選択肢がなくなってしまった。


「せめてもう少し露出の少ないやつにして…!」
「あら大丈夫よ。貴女とても肌が白くて綺麗だし、スタイルも申し分なくてよ。ふふ、あの御方もお喜びになるわ」


あの御方って、誰。
うっとりとわたしを見つめる彼女は、わたしの頬にそっと手を添えてくる。


「はあ…とても綺麗。その紅い瞳には一体どれほどの力が秘められているのかしら」
「…あの、?」
「美貌、魔力。あの御方と同じ…くれぐれも失望などさせないようにしなさいね」


口紅の引かれた唇は弧を描き、手が離れていく。
さっきから、あの御方あの御方って…それが誰かも分からないのに失望させるもなにもないんじゃ?


「さ、もうすぐパーティーが始まるわ。急ぎましょう」


多分これ以上何かを聞いても意味の分からない答えしか返ってこない気がする。

とりあえず何事もなく今日が終わればいい、とわたしは大人しく彼女の着せ替え人形になることにした。





***(アブラクサス視点)



ルシウスの報告の通りだった。何もかも。
ヴァルブルガ・ブラックによって着飾られた美しい彼女をエスコートしながらも、全身の血が湧き上がるような強い興奮が未だ冷めやらないでいた。

艶のある黒檀の髪に、真紅の双眸。薄めの唇にはほんのり紅が乗せられて妖艶で。
漆黒のドレスから惜しみなく露出された肌はまるで雪のように白い。
間違いなく、今まで自分が目にしてきた女性の中で類を見ない美貌だった。

彼女を連れてきた、スリザリン家系の中でもトップクラスの美女であるMs.ブラックすら霞んで見える程に。


「お腹、空いた…」


呟いたのはスズネ・ユキシロ。
思わず視線を隣に投げると、あの時のように再び2つの赤と目が合う。


「………っ」


あの御方と同じ赤。
交わった彼女の瞳は、あの御方のものとは全くの別物だった。
穢れを知らない純粋な瞳。敵意も殺意も鋭さもない、優しく穏やかな瞳。

だからかもしれない。彼女の聖域には、私達のような凡人が踏み込むことを許さない雰囲気が纏わりついているように思えたのは。


「パーティー会場へ行けばたくさん食べれますよ」
「でも今ってパーティー会場へ向かってるわけじゃないですよね?」


疑惑の眼差しを受けて私はニコリと笑顔を作る。

彼女の言う通り、今からお連れするのは我が君の元。
Ms.ユキシロと我が君。このお2人が相見え、互いの瞳が交差する瞬間を是非ともこの目に焼き付けたい。


「さあ、着きました。心の準備は宜しいですか?」
「…今から誰と会わされるのかも知らないんですから、心の準備も何もないと思うんですけど」


前髪をクルリと弄りながら拗ねたような声音でそう言う彼女の背中に手を添えて。

独りでに動く扉が開ききったところで、部屋の中へと入るようにその華奢な背中を軽く押した。
部屋の中の暗闇の先に、鋭くギラつく赤を見つけて私はほくそ笑んだ。



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