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思想に縛られる者 [ 27/45 ]



ホグワーツはクィディッチシーズンに入った。
チームに入って初めての試合を明日に控えるレギュラスは、勉強も身に入らず食欲もないといった様子が見て取れる。

レギュラスが手に持つフォークに刺しっぱなしだったミニトマトがポトリと皿に落ちたのを見て、わたしはセブルスと顔を見合わせた。


「大丈夫かな…」


思わず口から出てしまった不安に、セブルスは頷くことなく眉間に小さな皺を寄せただけ。
何かレギュラスの心配を少しでも取り除けるような気の利いた言葉をかけてあげたいと思うのに、いつまで経ってもその肝心な言葉が思い浮かんでこない。

”頑張ってね”は余計プレッシャーをかけるようで良くない気がするし、”レギュラスなら大丈夫だよ”なんてのも根拠も無しに軽々しく言うようなことじゃない気がする。

結局、朝食のときにはレギュラスへ一言も声をかけることができずに終わってしまった。





***



「あーもう、疲れるー…」
「来年が来年だからね」


図書館の隅で出された課題のレポートを羊皮紙に書き殴り、握っていた羽ペンを放り投げる。

テーブルにがっくりと項垂れれば、目の前の彼がクスリと笑った。
濃い茶色の癖毛に、細い眉毛、薄い唇にパッチリ二重の大きな瞳。わたしの前で笑う彼は、セブルスの友達のマルシベールだ。

何でわたしがマルシベールと一緒にいるかと言うと、エイブリーと野暮用があるというセブルスがマルシベールにわたしについていろと指示したらしい。
心配性だなあ、セブルスは。わたしはセブルスみたいに隠し事はないよ、なんて言ったら彼はどんな反応をするだろう。


「ねえ、ユキシロ」
「なーにー?」
「君、卒業後の進路とか何か考えてる?」
「…特に」


伸びた前髪をサッとかき上げて適当に返事をすれば、いつの間にか近くにいたらしい女子生徒からうっとりとした視線を向けられる。

なんか、前にもあったなこんなこと。
女子生徒たちをシッシと追い払った後、マルシベールがニヤリと笑ってわたしの隣へと移動してくる。


「君は知ってるかい?今、魔法界を揺るがす大きな革命が起きていることを」
「大きな革命?」


耳元で囁くように言うマルシベールにゾワッと肌が粟立つ。


「”マグル生まれ”や“半純血”の魔法使いを良しとしない闇の勢力が、そいつらを日々粛清してまわってるって話」
「…なにそれ」
「素敵な革命だろう?このまま闇の勢力が力を増せば、この魔法界には尊い純血の魔法使いしかいなくなるんだ」


先程の女子生徒たちに負けず劣らずのうっとり加減で宙を見つめる彼が気味悪くなり、距離をとる。

馬鹿げてる。まず最初に思ったのはこれだった。

純血については知っていた。
魔法族のみで続いてきた家系の魔法族のことだと、何かの本で読んだことがある。
純血を尊び、重んじるという思想を持つことを否定はしないけれど、その思想を持つが故に非純血の罪のない人達を粛清するだなんて間違ってるに決まってる。

それをマルシベールは”素敵な革命”だなんて。


「君はスリザリンだ、ユキシロ」
「………」
「スネイプが一向に君をお誘いしないものだから、僕から言わせてもらうことにするよ。…君も、卒業したらこちら側に来て死食い人になろうじゃないか」
「デス、イーター…」
「ああ。こんなに素敵な革命を起こしたあの御方の手足となって働くことができるなんて、こんなに名誉なことはないよ」


ふふ、と不気味に笑うマルシベールに気分が悪くなる。

誰が、そんなものになりたいと思うか。
わたしは思い切りマルシベールを睨みつけて、図書室を出る準備を始めた。


「じゃあなんだ、その革命が許せないというのなら…君は闇払いにでもなるつもりか?」
「わたしが何になるつもりでも、それがマルシベールに何か関係ある?」
「は、僕には関係ないかもしれないが…スネイプはどうだ?」
「…セブルスが、なに?」
「彼は元よりこちら側の人間だ。君が闇払いになんてなろうものなら、いつか君と彼は殺し合うしかなくなるよ?」


それはつまり、セブルスはわたしが馬鹿げていると思ったその革命とやらに賛成で、卒業したら死食い人になるつもりってこと?
…まさかそんな、セブルスがエイブリーやマルシベールと一緒にいる理由は。

いや、分からない。
あんなに優しくて、純血ではないリリーや純血かどうかも分からないわたしと仲良くなってくれているんだから。
マルシベールが、わたしを自分達の仲間にしようと嘘をついてる可能性だって否めない。


「…っスズネ!」
「セブルス?」


いきなり現れたセブルスは息を切らし、わたしとマルシベールの間に滑り込んで引き離した。

セブルスは、やれやれと肩を竦めるマルシベールをひと睨みするとすぐにわたしに振り向いてくる。


「行くぞ、スズネ
「え、うん?」
「…レギュラスに問題発生だ」
「ええ!?」


思ったより大きな声が出てしまい、マダムの怒鳴り声がピシャリと図書室に響いた。

慌てて勉強道具を片付けて、それからセブルスに手を引かれてその場を後にする。

チラリと後ろを振り返ったらマルシベールが嫌な笑みを浮かべてたから、あっかんべーしてフンと顔を逸らした。





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