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迫る恐怖と憎悪 [ 25/45 ]



10月31日、ホグワーツに来てから2度目のハロウィンを迎えた。

去年のようにたくさんの人に話しかけてもらえるのはとても喜ばしいし嬉しいことだけれど、セブルス達など仲の良い人達と過ごす時間が減ってしまうのは今年は何としても避けたい。

―…ということで。


「平和だねー、セブルス」
「…一体何をしたんだ?」


ハロウィン当日。
わたしは去年と同じように起きて、去年と同じように大広間へと向かったけど、すれ違いに挨拶をされる程度で足を止められるほど人に絡まれることはなかった。

数占い学の教室へと向かう途中、廊下ですれ違う人々を奇妙そうに見ていたセブルスがいつものように眉間にシワを刻みながらわたしを見下ろす。

セブルスの眉間のシワ、いつかとれなくなっちゃいそう。いっそシワを寄せる場所を変えたらいいのになあ。
例えば鼻とか?…なんてどうでもいいことを考えながら、目の下に指を添えてから口を開いた。


「去年ね、わたしにお菓子をくれた人達がたくさんいたでしょ?そのお菓子の包みにみんな自分の名前が書かれたカードを入れてくれててさ。それを頼りに、去年わたしにお菓子をくれた人達全員に一足先にお菓子を送っておいたんだよ」
「………バカか」
「徹夜してすごく頑張った…!」


自然と落ちてくる瞼に、手から転げ落ちるヘラ。
何度自分の頬を叩いて眠りから意識を引っ張り上げたことか。

送ったものの中には分量間違いや、最悪は塩と砂糖間違いなんてものもあるかもしれないけどそれは許してほしい…。


「自分でもバカだなあとは思ったけど、どうしてもセブルスとゆっくりハロウィンを過ごしたかったからさ」
「スズネ…」


決して今まで校内では繋がれることのなかったはずの手が、セブルスによって握り締められた。

ヒヤリと冷たいセブルスの手にビックリして、わたしは両手を使って暖める。
よく見れば、こんな風通しのいい廊下を歩いているのにセブルスの首にはマフラーも巻かれていない。

そんな無防寒じゃ風邪ひく!と睨むと、寒さで鼻を少し赤くさせたセブルスが『スズネが暖かいから平気だ』と目元をふと柔らかくさせた。


「セブ、」
「―…スネイプ先輩!」


わたしとは違う、高くて、まるで小鳥が鳴くような可愛らしい声がその場に響いた。

セブルスと顔を見合わせた後に振り向くと、そこには濃いブラウンの髪を三つ編みにして左右に垂らした小さな女の子がいた。
眼鏡をかけた彼女の、鼻と目の下にあるそばかすが印象的。


「…誰だ」


めんどくさそうにセブルスが問うと、彼女はニッコリ笑ってセブルスの前までスキップでやってくる。

青色のネクタイに、鷲のシンボル。
それでこの子がレイブンクローだと認識はできた、けど…。


「私、レイブンクローの1年生のエイミー・ブラウンです」
「…知ってる?」
「いや、初めて聞く名前だ」


セブルスにだけ聞こえるように問えば、小さく首を横に振る。
セブルスは知らないけどセブルスを知ってる、エイミーと名乗った彼女。


「………っ!」


その子に視線を向けると、さきほどセブルスに向けていた笑顔とは打って変わった、鋭く睨みつけるような瞳でわたしを見ていた。

ドクン、ドクン。
小さな胸騒ぎがだんだんと大きくなっていく。わたしより小さい彼女に恐怖を感じて、自分の身体が一瞬、小刻みに震えたのが分かった。


「スネイプ先輩、トリックオアトリートです!」
「何を言っている」
「あれ?今日はハロウィンですよね?」
「…行くぞ、スズネ」
「え、あ…いいの?」


わたしの問いに『かまう必要はない』と冷たく吐き捨て、ブラウンさんに背を向けて足早にその場から去ろうとする。

そんなセブルスのあとを慌てて追いかけようとした時、パシリと右手を掴まれた。
その力の強さと痛みに思わず顔を顰めて振り返ると、ブラウンさんは矯正された歯を見せてニヤリと笑う。

ゾクリ、と背筋に走る冷たい感触。…おかしい。この子は何かおかしい。


「いいんですね?」
「…は、」
「お菓子をくれないなら、悪戯…しちゃいますヨ?」


いいんですね?ともう一度呟くように言った彼女が、不気味で仕方なく、バッと手を振り払った。

それなのに、彼女は笑みを浮かべたまま。


「先輩のその眼って不気味です、ね?」
「……っ、知ってる」


紅い、赤い、わたしの双眸。気味悪いのも不気味なのも、分かってる。


「嗚呼、怖い。このままじゃその眼と同じ色に染められてしまいそう…サヨウナラ、ユキシロ先輩」


大袈裟に自分の身体を抱き締めて、彼女はわたしの前から去っていった。

『おまえは呪われてるんだ…!』
『気持ち悪い!近寄らないで!』
『ひぃ!殺される…っ!」
『化け物はいなくなれ』

忘れていた、悪夢のような記憶が蘇ってくる。
違う、違う。わたしは呪われてなんか、化け物なんかじゃ…!


「―…スズネ!」
「…っせ、ぶ」
「大丈夫か?…あいつに何かされたのか」


紅く染まりそうになった視界にセブルスが入り込み、スーッと魔力の波が引いていくのが分かった。
心配そうにわたしの顔を覗き込むセブルスに首を横に振って見せて『なんでもないよ』と笑う。

セブルスに心配かけてるようじゃ、ダメだ。大丈夫、弱くない。いつまでも弱いままのわたしじゃないはずだ。
言い聞かせるように何度も心の中で呟いて、大きく息を吐いた。


「いこう、セブルス」
「……ああ」


ちょうど鳴った授業開始5分前のチャイムに急かされて、わたしとセブルスは急いで教室へと向かった。




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