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現れた少女と恋情 [ 17/45 ]



「皆に紹介しよう。生徒では無いが、ホグワーツで保護することとなった女の子じゃ。良くしてあげなさい」
「初めまして、ユキノ・サクライです!残念ながら、あたしは魔力がない普通の人間なので入学はできませんが…仲良くしてください!」


バッと勢いよく頭を下げた彼女のブラウンの長髪が揺れる。
そして顔を上げた彼女がニコリと微笑めば、そこかしこから小さな嘆息が聴こえてきた。

ユキノ・サクライ。
その子は、あの時セブルスに抱き着いていた女の子だった。

彼女の自己紹介が終わり、戸惑いながらもパチパチと各テーブルから拍手が鳴り響く中、スリザリン寮生だけは誰ひとりとして手を鳴らすことはない。


「魔力がないだって?要するにマグルってことだろ?」
「マグルがいる学校で生活するなんて御免だ」
「ありえない」「最悪」「穢らわしい」


魔法族の純血を最も尊ぶスリザリン生は口々にサクライさんを罵倒して不快感を顕にしていた。

名前からするに、彼女はわたしと同じ日本人…だよね。また何でマグルである彼女がこのホグワーツに?

大広間にいる誰もが疑問に思っていることを考えていると、少し離れたところに座るセブルスと目が合う。


「…っ、!」


湖の近くで、セブルスとサクライさんが抱き合っていたのを思い出してしまって思わず目を逸らしてしまった。

あの時から、ズキズキと胸が痛みっぱなしだ。

グッと握りしめた手にそっと誰かの手が触れて、弾かれたようにその主を見た。


「レギュラス…」
「大丈夫ですか?顔色が悪いです」
「…うん、大丈夫だよ」
「セブルス先輩と何かありましたか?」


眉を八の字にして、至極心配そうに見つめてくるレギュラスに何も話さないのは躊躇われてわたしは小さな声で話し出す。

スラグクラブのハロウィンパーティーでセブルスに告白されたこと。
『好き』の違いが分からなくて悩んでいて、セブルスに返事ができてないこと。
今日、セブルスとサクライさんが抱き合っているところを見てしまったこと。


「…それを見たら、すごく胸が痛くなって見てられなくて。今もそれを思い出すと、痛くなる」
「…………」
「レギュラス?」
「…ムカつく」
「えっ、」

「何ですかそれ?自分でスズネ先輩に想いを伝えておいて、返事は待つとかキメておきながらそのせいで悩んでるスズネ先輩の苦悩も知らないで他の女と戯れるなんて…!あー腹が立ちます、非常に。大人しい顔しておきながら本当は女なら誰でもいいんですかね?あの人は」


レギュラスから早口で紡がれる言葉はどれもセブルスの悪口で、その迫力に唖然としてしまった。

今が食事の時間で良かったと思う。
だってレギュラス全然小声じゃないし、下手したらセブルス本人に聞こえてたかもしれない…。

わたしが原因で直接関係のない2人が喧嘩するなんてこと、なってほしくないから。


「それに、何なんですか?あの女も。そもそもどういう経緯があってマグルなんかをホグワーツで保護するとかいう話になるんです?意味不明。マグルならマグルらしくあの下級世界で暮らしてればいいものを…僕たちと同じ空気を吸うこと自体許されないというのに」


どんどん機嫌の悪くなっていくレギュラスになんて声を掛けていいか分からなくて、わたしは曖昧に『何でだろうね』と相槌を打った。

レギュラスはスリザリンに誇りを持っていて、その大元には純血主義という思想がある。

わたしにはよく分からないし、純血でも混血でもたとえマグルでも同じ人間なのだからその中で優劣をつける必要はないと思ってる。

だからと言ってレギュラスの考えを否定する気はない。
でも、もしレギュラスがマグル生まれの魔法使いであるリリーに対して何か言おうものならばわたしはそれを全力で止めるし怒るけど。


「スズネ先輩、あの女どうにもきな臭いです。…気を付けた方がいいと思います」
「きな臭い…?」
「ええ。さっきからあいつ、セブルス先輩をずっと見ているしたまにグリフィンドール席に視線を向けては不可解な笑顔を浮かべてます」


そう言ってゴブレットを煽ったレギュラス。
わたしはそっと教員席のミネルバの隣で食事をとるサクライさんを盗み見た。


「……っ」


その瞬間、彼女とカチリと目が合ってしまう。

それから目を離せないでいると、サクライさんは自己紹介した時と同じようにニッコリと笑った。


「な、に…」


ゾクリ、と背筋を冷たい感触が撫ぜていく。

…あの子は一体、何者なのだろうか。





***


ユキノ・サクライは、ほくそ笑んだ。

白い長い髭を携えたアルバス・ダンブルドア校長。
スリザリンテーブルで無表情で食事をするセブルス・スネイプ。
グリフィンドールテーブルでやんやと騒がしい悪戯仕掛人の4人に、燃えるような赤い髪の女性。

夢にまで見た世界が目の前にある。
歓喜と興奮で今にも叫びだしそうなのを必死で堪えた。


「大丈夫ですか?Ms.サクライ」
「あっ、はい!美味しそうなものばかりでどれから食べようか悩んでました!」
「食事は逃げませんから、ゆっくりお食べなさい」


マクゴナガルが威厳ある顔を緩めてそう言うと、ユキノはコクリと頷いてまた視線を『彼ら』へと戻す。

(普通、トリップしたら魔力が備わるとか何とかで生徒として編入させてもらえたりするのがベタだと思うんだけど。そんな特典もなく、あたしはマグルのまま…。きっと他に何かすごい力を持ってるんだわ!ああ、楽しみ)

上がる口角を隠すことなくユキノは大広間を見渡した。


「……っ」


そして、スリザリンテーブルの紅い瞳に目を奪われる。
黒髪に赤眼はまさに、自分の記憶の中にあるとある人物と一致する特徴だった。

(わあ…トム・リドルみたい。でも時代が違うしあの人とは別人だよねえ。それにしてもカッコイイー…ふふ、媚売っとこっと!)

ユキノがニッコリ笑いかけると、相手はビックリしたように目を見開いてすぐに目を逸らされてしまった。


「うふふっ」


せっかく待ち望んだ世界に来られたのだ。やりたいことはやり尽くしたい。

―…なんせ自分は、このお話のヒロインなのだから。



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