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好きのかたち [ 8/45 ]



「僕は断然このディープグリーンですね。スズネ先輩の艶美な赤眼とよく合います」
「…僕はこっちの白が、」


『これ見て早く決めなさいね!』とリリーから押し付けられた雑誌を握りしめて、熱烈に深緑を推してくるレギュラス。
それから白いマーメイドドレスを控えめに指差すセブルス。


「スズネ先輩はどっちがいいですか?」
「スズネはどちらがいいんだ?」
「あ、いや…わたしは何でも」


同時に聞かれて、顔を引きつらせながら答えるとレギュラスとセブルスはまたブツブツと口論を始めた。

自分たちが着るものでもないのに何であんなに熱心に選んでくれるんだろうなあ…。
相当変なのじゃなければ何でもいいのにレギュラス、そして意外にもセブルスも一歩も譲らないからなかなか決まらない。


「セブルスって白とか好きなの?もっと暗い色が好きなのかと思ってた」
「…いや、僕自身は落ち着いた色の方が好きだが…スズネには明るい色の方が似合うと思っただけだ…」


どんどん小さくなっていったセブルスの声。耳が少し赤い。
セブルスが、明るい色の方が似合うと言ってくれたことがなんでかすごく嬉しく思った。


「…っレギュラス、ごめん。わたし、この白いやつにする」
「スズネ先輩…ううっ、何故ですか!こっちの方がスリザリンカラーで素敵なのに…」
「一生懸命選んでくれたのにごめん…。そ、その代わりさ!レギュラスにはアクセサリーとか選んでほしいなあ、なんて」
「…!!任せてください…!」


ズーン、と落ち込んだ様子から一変して目を輝かせて雑誌を凝視し始めたレギュラスに苦笑する。

なんだかブンブンと勢いよく振られる尻尾が見えなくもない。
そう考えると、シリウスとレギュラスは似てる部分が割とある気がした。


「スズネ、いいのか?僕が選んだもので…」
「うん!白ってあんまり着たことないから似合うか分からないけど、セブルスの見立てなら安心かな」


ニコリと笑ってセブルスを見上げると、セブルスは少し目を見開いてからふと目元を緩ませる。そしてそのまま口角も小さく上がり…。


「…ああ。きっとよく似合う」
「………っ!」


今まで見たこともないようなセブルスの表情と、頬に触れられた手。
ドキン!と大きく胸が高鳴って、それからドキドキと鼓動音がうるさくなっていく。

またこの感覚。
なんで?分からない。この気持ちは…一体。


「セ、ブルスって…わたしに呪いとかかけてたりする?」
「は?そんなことするわけないだろう」
「だよねー…」
「…?どうかしたのか?」
「いや大丈夫!ちょっとお茶入れなおしてくるね」


急須を持ってキッチンへ向かう足を止めて、何気なく振り返ると、セブルスと目が合った。
ドキ、ドキ。そんな音がまた聴こえた気がした。




***(レギュラス視点)



「セブルス先輩の、ばーか」
「…いきなりなんだ」


凝視、したフリをしていた雑誌から目を離してセブルス先輩を罵る。
案の定、不機嫌そうに顔を顰めたセブルス先輩に向かってフンと鼻を鳴らした。


「あれで気付かないなんて愚鈍にもほどがありますよ」
「だから何の話だ…!」
「…悔しいから、教えてあげません」


手に持つ雑誌をギュッと胸に抱いた。

美しくて、可愛くて、憧れで、僕の大好きなスズネ先輩。
でも、彼女はセブルス先輩に好意を持ってる。
あんな、スズネ先輩の表情を見てしまえば気付きたくなくても気付く。


「僕だって、スズネ先輩が好きなのに…」
「レギュラス…」


まるで欲しいものが手に入らなくて駄々をこねる子供だ。

母が見たら『ブラック家の跡継ぎが情けない!』って叱咤されるに違いない。
そう自覚して、恥ずかしいと思うのに。

今の僕には、そんな感情を態度に出さないでいれるほど僕は大人じゃない。


「ほい、おまたせー。って、レギュラス?そんな隅っこに体育座りなんてしてどうしたの?」
「…っなんでも、ないです」


戻ってきたスズネ先輩が首を傾げながらこちらに来る。
そしてソファに座る僕の隣に腰掛けて、ポンポンと僕の頭にスズネ先輩の手が乗った。


「わたしがいない間に何があったか分からないけど、これで元気出るかな?」
「……っ、」


ふわりと鼻に香るのは、焼き菓子の香ばしい匂い。その中に仄かに混じる甘い、甘い匂い。
スズネ先輩が差し出してきたのは、小さなカゴに乗った色とりどりのマカロン。


「これ、…」
「レギュラスの為に作っておいたんだよー」
「僕のため?」
「うん。レギュラス、わたしの作るマカロンが好きって言ってくれてたでしょう?最近作ってなかったなーと思ってさ!」


嬉しそうに微笑むスズネ先輩を見て、鼻の奥がツンとした。
そのカゴを受け取って、スズネ先輩を見ると変わらない笑顔がそこにある。


「僕の、僕だけのために作ってくれたんですか?」
「もちろん。セブルスは甘いのあんまり好きじゃないからね。それはレギュラス専用!」


視界に映ったセブルス先輩が少し悔しそうな顔をしているのが見えて、優越感に浸れた。

そうだ。スズネ先輩がセブルス先輩のことが好きでも、たとえ2人が結ばれたとしても…僕の近くに、この人の存在がいてくれるならそれでいい。
これからも、スズネ先輩の笑顔を見られるならそれで。


「セブルス先輩だから譲るんですからね。不幸にしたら、すぐにでも僕が奪いますから」
「…な、!?」


これが恋なのか愛なのかなんて、分からないままでいい。
僕はスズネ先輩が好き。


「スズネ先輩、僕のこと好きですか?」
「え?もちろん、好きだよ?」


そして、それがどんな形であれスズネ先輩も僕を好きだと思ってくれている。
この事実があり、そしてこの人の笑顔を見れるなら僕は満足なんだ。


「スズネ、僕は別に甘いものが嫌いなわけでは…」
「そうだとしても、このマカロンは僕専用ですから。セブルス先輩にはあげませんよ」
「くっ……!」


それと同時に分かったことがある。
セブルス先輩やダンブルドア校長が、スズネ先輩と僕の家であるブラック家の人間との接触を頑なに拒んでいた理由。


「レギュラス、味どうかな?」
「…いつも通り、とても美味しいです」
「良かった!」


この人は、闇に染まってはいけない人なんだ。

それに気付いて初めて、僕はブラック家に生まれたことを恨めしく思った。



(闇に埋もれる小さな願い)


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