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変化していく日常 [ 4/45 ]



***(セブルス視点)


スズネへの想いを自覚してからというもの。
一緒にいるときも、そして目が合うだけでもこの心臓が煩くなってしまうようになり、その苦しさから逃れるために、スズネとの接触を控えることにした。

それでもいつものように僕へ声を掛けてくるスズネに嬉しくなる半面、それを断ったときの彼女の表情に罪悪感に苛まれる。
今日も今日とて、用事があると言いスズネの誘いを断ってしまい、そのまま図書館にでも行こうとしたが。

僕の足はピタリと止まる。


「セブルス」
「セブルス先輩」


リリーとレギュラスが雁首揃えて目の前に仁王立ち。


「最近スズネのこと避けてるみたいね。どういうこと?見た?あの落ち込み様。見てられないわよ私」
「どうせスズネ先輩が好きだって気付いてから妙に意識してしまって、一方的に避けてるだけでしょう」
「なっ…!?レギュラス!!」
「え!?そうなの?そういうことなの?セブ!ああ、良かった。あなたって頭はいいくせにそういう所は鈍いから自分の想いに気付くか不安だったけど…うふふ、そうなのね!」
「〜…っ!!」


レギュラスは不快そうに顔を歪め、リリーは今にも踊り出しそうなほどに上機嫌。
そして僕は、火が出るのではないかというほどに顔に熱が集まりその場から動けずにいた。

否定はしない。スズネのことが好き、ということに偽りはないから。
だがそれを周りに知られるということは、僕にとって不都合でしかないのだ。
スズネを溺愛しているこの2人には特に。


「あのねえ、セブ。あんな避け方してたら、好きどころか嫌われてるんじゃないかと思うわよ?スズネも」
「…だが、スズネの近くにいると胸が苦しくなるんだ」
「うわ、セブルス先輩。まるで恋する乙女ですね。やめてくださいよもう」
「ブラック弟は黙ってなさい。いい?今すぐに想いを伝えろとまでは言わないけれど、まさか好きと想ってるだけで終わりにするわけではないでしょう?」


リリーはそう言って、僕がさっき落としてしまった本を拾う。


「スズネもセブルスも、私にとってとても大切な友達なの。2人には幸せになってほしいと思ってるわ」
「だが、僕なんか…」
「スズネは少なくとも、セブルスのことを特別な存在として見てるわよ。…でも今のあなたは、そのチャンスを自ら潰そうとしてるだけ」
「…っスズネが、僕を?」


リリーの言う通り、好きと想ってるだけで満足なわけがない。
できることならスズネにも同じ気持ちになってほしいし、僕だけのスズネに…なってほしい、とも思う。

そして気付く。
羞恥心に負けてスズネを遠ざけることは同時に、彼女へと近付くチャンスを遠ざけてしまっているのだと。


「ブラック弟には悪いけど、私はセブルスのこと応援するわ」
「リリー…」
「スズネはきっとあの場所にいるんじゃないかしら?」


リリーの言うあの場所とは、スズネのお気に入りの湖の畔のことだろう。

僕は持っていた本をレギュラスにすべて託して、その場所へと向かおうとした。その時、リリーが僕を引き留める。


「セブ、あなたがマルシベールやエイブリーと裏でコソコソ何かしてるのは知ってるわ。あなたの交友関係に口を出すつもりはない。でも、友達が間違った道へ進もうとしてるのが分かったら私は…それを全力で止めるつもりよ」
「…っ、」
「スズネだってそうするはず。…よく考えてね、セブルス」


懇願するようなリリーの声音に、僕は頭が痛くなるような思いだった。

スズネを守れるほどの力が欲しいと、強くありたいと。
そう思えば思うほど、僕は闇の魔術にのめり込んでいった。
その中で、マルシベールやエイブリー…要するに闇側の彼らと一緒にいることは僕にとってのメリット。

闇の魔術が良いことでないことは分かっている。だが、僕は…。


「…スズネのところに行ってくる」


振り返らずに走った。
きっと今のリリーを見たら、僕の決心は鈍ってしまうと思ったから。




***


「はあー…」
「エバンズ先輩、僕はこれで失礼します」
「…あ、ええ」


セブルスに押し付けられた本を気怠そうに持ち直したレギュラスの言葉に腑抜けた返事をしたリリー。

その場を去ろうとするレギュラスを、セブルスのときと同じように声を掛けて引き留めた。


「ブラック弟。あんた達、一体何を企んでいるの?まさか将来、死喰い人になる気なんじゃ…」
「エバンズ先輩、貴女には関係ない。…貴女なんかには」


振り返ったレギュラスは冷たい炎を瞳に宿している。
しかし他の人のように『穢れた血』とは呼ばず『貴女なんか』と蔑む言葉は、どこか彼の優しさが含まれているようにリリーには聞こえた。


「スズネが言えば、何か変わってくれるのかしら…」


スズネに想いを寄せるセブルス、そしてレギュラス。
彼らを変えられるのはきっと、スズネだけだとリリーは思う。

1人になってしまった廊下で、人知れず大きく溜め息を吐いた。


「やあリリー!こんなところでどうしたんだい?元気がないようだけど…」
「…ポッター。大きな声を出さないでちょうだい」
「んー、やっぱり元気ないね。リリーには笑顔が似合うよ!」


リリーと会ったジェームズはニコニコ笑いながら、杖を振る。
ポンッと音を立ててリリーの周りに振ってきたのは小さな色とりどりの花たち。


「うん。花にも負けないほどリリーは綺麗だね」
「…っ。ポッター、」
「ん?」
「…ありがとう」
「っ!!リリー!」


いつもは嫌悪するはずのジェームズの『悪戯』に、リリーは小さく笑った。



(願わくば、みんな幸せに)


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