大切な人の為に [ 45/45 ]
***(セブルス視点)
「う、ううっ…」
ソファの上に膝を抱えて座り、クッションに顔を埋めて号泣しているスズネをチラリと一瞥して読んでいた本を閉じた。
「…何も、関わるなとまで言わなくても」
「っダメだよ!ただでさえリリーは…すごい魔女だけどマグル生まれであいつらに狙われやすいし、それにわたしと一緒にいたら危険なんだから!」
クッションから勢いよく顔を上げて怒鳴り、またクッションに顔を戻す。
あの事件があってから、スズネと僕は定期的にダンブルドア直々に訓練をつけてもらっているが例のあの人の集団に対抗するには当然まだ未熟だ。
スズネはリリーに被害が及ぶことを一番恐れていて、自分の大切な人を守れるくらいの力をつけられるまではその被害を被る可能性のある人達との関わりを絶つことに決めたらしい。
それを先程リリーに伝えたようだが、受けたダメージはだいぶ大きいようだ。
きっとそれは、スズネをあれほど溺愛していたリリーも同じだろうが。
「自分で決めたことだし、リリーのことすごく傷付けちゃったし後には引けないからどうしようもないんだけどさ…。ただ、エイブリーとかマルシベールがわたしが心変わりして死喰い人になる気になった!なんて変に勘違いしてるのが本当に不愉快」
リリーとの関係を絶った後、それを見ていたらしいエイブリーとマルシベールに絡まれながらこの私室に戻ってきたのだという。
『やあスネイプ。君のガールフレンドはようやくこちら側にくると決めたようで嬉しいよ』とマルシベールが喜々として僕に話しかけてきたのを思い出す。
勘違いも甚だしいことだが、勘違いしてもらった方が都合はいい。
だが…あいつらが変に周りに言いふらしたりするのは厄介すぎる。
そして特に気がかりなのは”あいつら”だ。
「…わたし、本当はセブルスも巻き込みたくない」
考え込んでいたら、そんなスズネの呟きに意識を引き戻される。
ゆらゆらと涙で潤った赤い双眸が、クッションの隙間から僕を見つめていて小さく溜め息を吐いた。
「僕は、何を言われようが離れてやらないぞ」
「………っ」
スズネが傷付くこと傷付けられること。
悲しむこと。苦しむこと。
叶うことならその全てから守りたい。
だからこそ僕は、スズネを利用しようとするあの集団にわざと加担する。
それが僕に与えられた役目であり、僕の守り方。
「セブルス、」
「異論は聞かない」
「違う。…セブルス、大好き。ほんとに」
くぐもった声で、それでいてハッキリと聴こえたその言葉。
僕も同じ気持ちなのは、今口に出さずとも伝わっているだろう。
そう思い、僕は立ち上がってスズネの隣に腰をかけて頭を撫でる。
その手つきがぎこちなくなってしまったのは、仕方ない。
こうやって人に触れるのは何せスズネが初めての相手なのだから。
「はあ…あとは、レギュラスかあ」
「純血主義でもある、そして闇のあの人の熱狂的ファンだ。写真を集めてスクラップしているくらいだしな。何より、親が闇側の人間でもある」
「そうだけど、でも…レギュラスは!いくら純血主義でも、リリーとだって普通に喋ってたし良い子だよ…。あの人達と同じような人間だなんて到底思えない」
「思えなくても、その可能性はあるだろう。どちらにしろ、今まで通り接するならするで用心するに越したことはない」
「…うん、分かってるよ」
本当に小さな声でそう言ったスズネは、ゆっくりとまたクッションに顔を埋めてしまう。
スズネがレギュラスを可愛がっていることを知っている。
少しきつく言い過ぎたか、と焦って膝を抱えるスズネの手にそっと触れた。
「スズネ、僕は…」
「…分かってる」
僕の言葉を遮ったスズネは、同じ言葉を繰り返して顔を上げてふにゃりと笑う。
「セブルスが、わたしを心配してくれてることすごくよく分かってる。…わたしに、こんな魔力なんてなかったらよかった。わたしのせいだ、全部」
そう言ったスズネが伸ばした右手は、包帯の巻かれている足に触れる。
そこに隠された禍々しいあの印を思い出し、顔を顰めてしまう。
これから先、どうなるかは分からない。
僕はただ、何があろうとも目の前で震えるスズネを守り、彼女の為に生きていくだけだ。
そうしてホグワーツはスズネが此処へ来てから2回目の夏季休暇を迎えた。
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