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選んだ未来 [ 41/45 ]


***



「スズネ…」


ベッドに横たわるスズネの手をぎゅっと強く握る。

閉じられた瞼はピクリとも動かず、ただ浅い呼吸を繰り返しているだけだ。
包帯だらけの痛々しいスズネの姿は、僕の心を深く抉る。


「早く目を開けてくれ…」


自分でも分かるくらいの弱々しい声に、吐き気がした。




***



「何があったのじゃ」


スズネの治療が終わり、落ち着くと、僕はダンブルドアと共に校長室にいた。
ギラリと彼のかける 半月型の眼鏡が光ったように見える。

何があった、なんて。そんなもの…僕の方が知りたい。


「僕の家に、1人の男がいきなり現れて…スズネを連れて姿くらましをして消えました」
「その男に見覚えは?」
「…ありません。すぐにあなたに連絡をしようと思いましたが、スズネが消えてあまり経たないうちにルシウス・マルフォイが家を訪ねてきて、」


そこまで言い終わると、ダンブルドアの顔が徐々に険しいものになっていることに気付いた。

妙に感じる緊張感の中、居心地が悪くなりながらもその先の話を再開させる。


「ルシウスは僕に言いました。『焦る必要はない、セブルス。彼女は今、我がマルフォイ家の屋敷にいる』『ある方が彼女に興味をお持ちの様子でね』…と」
「まさか、何と…!」


目を見開いて驚くダンブルドアはきっと、”あの方”に対して僕と同じ人物を思い浮かべているのだろう。

それから彼とマルフォイ邸へ行き、屋敷の中へ入ったところで傷だらけのスズネと遭遇してスズネの咄嗟の姿現しによりホグワーツへと現れたことを話した。


「校長、スズネを狙っているのは…」
「ヴォルデモート卿、じゃろう」


”ヴォルデモート卿”。
ハッキリとその名を言われてしまえば僕の身体はピキリと硬直する。

卒業して死喰い人になれば、僕が仕えるのは闇に生きるその人だ。
…だがその人はスズネを狙い、殺そうとした。それは一体なぜ…。


「あ奴はスズネを殺そうとしたのではない。あの子が稀な魔力の持ち主と知って、自分の目的のために利用しようとしたのじゃ」
「利用…」
「あの子のことじゃ…あちらの誘いを断り逃げようとしたのじゃろう」
「その時に攻撃を受けた…?」
「いかにも。足を狙ったのも、捕えることが目的でもあったようじゃ」


死喰い人になって優秀だと認められ力をつければ、大切なスズネを守れると思っていた。
だが、迷いなく彼女を傷付けることのできる奴(ら)に付き従うということは…僕も間接的にスズネを利用し傷付けようとしているのと同じことだ。

大量殺戮を犯し、平気で人の命を奪い、スズネを傷付ける奴らと同じになんてなりたくは、ない。


「よいか、セブルス。スズネを守るのじゃ」
「…僕に、そんな力は…」
「力がなければ、つけるのだ」


ふ、と表情を緩めたダンブルドアは冷め切った紅茶に口をつけた。

スズネを守る。守りたいと思う。
力がないならつけろ、というダンブルドアの言葉は最もだがそのためには…。


「セブルス、スズネを守る第一歩として君にしか頼めないことがある」
「僕にしか、頼めないこと?」
「そうじゃ。わしもあの子が大切じゃ、守らねばならん。その為には君の協力が必要なのじゃ」


アイスブルーの瞳が、僕を射抜く。
スズネが大切で、守りたいと思う気持ちはこの人も同じなのだとひしひしと伝わってくる。

彼女を傷付ける方、彼女を守る方。どちらを選ぶのかなど考える必要すらなかった。


「ー…スズネの為ならば、何でも引き受けます」
「ありがとう、セブルス。その代わりというわけではないが、わしの出来る限りで君が強くなるための手助けをさせてもらおう。…もちろん、スズネもこれから戦い方を学ばねばならん」


ダンブルドアが小さく息を吐いたところで、僕も握り締めていた拳をそっと解いた。




(君の為にできること)



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