闇に染まる聖夜 [ 39/45 ]
とんでもないところへ連れてこられてしまった、と舌打ちをしたくなった。
「さて、スズネと言ったか。貴様がこちらに与するというのであれば、その白い肌に闇の印を刻み終えた後すぐにでも家へ帰してやろう」
「っ誰が、!」
「良いのか?此処には貴様の大切な友人とやらも招かれている。その友人が傷付くことになるのは貴様とて望むところではあるまい…」
そうだ、セブルスもここへ来てる。
わたしが下手に動けば、彼らは容赦なくセブルスに杖を向けるはずだ。
…何か、この状況を打破できる方法を。
「………ッ」
わたしのこの強い魔力は、何の為にある。
このくらいの状況、打破できなくてこの先誰かを守ることなんて絶対にできない。
グッと握りしめていた手をふわりと解いて、わたしは目の前の彼を見据えた。
「あなたが何者かは知らないけど、わたしはそっちには行かない」
「…貴様の大切な者達が死ぬことになるぞ?」
「そんなことにはならない。だって…」
わたしが守るから。
言い終えるのと同時に素早く人差し指を天井へと向け、心の中で強く唱える。
”ルーモス・マキシマ”
ノクターン横丁で思いがけず使ってしまった時の何倍もの強い光が部屋中を白く染めた。
「っ、何も見えない…!」
「あの小娘はどこだ…ッ」
魔法を放ってすぐに扉までの道を駆け出す。
天井に放った光は今もなお煌々と輝き続けていて、彼らの目眩ましをしてくれていた。
慌てふためく声がいくつも聴こえるけど、その中に”彼”の声は一切ない。
それが気になったけどわたしはドアに向かって全力疾走。
うっすらと見えてきた扉に安堵して、ドアノブに手をかけようとした。
「…ッ、!?」
その時、左足への大きな衝撃と強い痛みが走りそのまま倒れ込んでしまう。
視界に映ったわたしの左足は、深く切り刻まれて酷い出血をしていた。
まさか彼は、この状況で的確にわたしに呪文を当てた…!?
「そんなに急いてどこへ行く。パーティーはまだ始まったばかりではないか」
どこから聞えてきているのか分からないあの恐ろしい声は、他の音を遮断させてハッキリとわたしの耳に届いてきた。
声は近いのに、姿が見えない。それがより恐怖を増して身体が震える。
ズキンズキン、と血管が脈打つくらいの痛みに目を瞑ってしまいたくなるのをグッと堪えた。
こんなところで捕まってたまるか…!
「―…レダクト!」
粉砕呪文で扉を破壊し、痛む足を無視して全力で走り出す。
部屋から出ればそこは長い廊下が続いていて、どこに行けば出口なのか分からない。
…最悪、窓から飛び出るのもありだ。
「はあ、はあ…っ」
左足にエピスキーをかけて痛みを和らげながら、走る。
ここから1人で逃げるわけにはいかない。…セブルスを探さないと。
立ち止まって振り返れば幸いにも追ってきている人はいない。
ギュッと首から下げられたセブルスからのプレゼントを握りしめて、わたしは再度足を動かした。
しばらく走っていると、目の前に2つの人影が見えてくる。
「、っセブルスー…!」
「なっ、!?」
わたしを此処へ連れてきた人と似ているようで違う銀髪の男と、その隣にいるセブルス。
2人はわたしの姿を見つけると驚いたように目を見開いていた。
セブルスの姿を見たら安心してしまって込み上げてくる涙が視界をぼやけさせるけど、それをグイッと拭って指を向ける。
きっとセブルスの隣にいる彼も、あいつらの仲間で間違いないから。
「エクスペリアームズ…!」
「っ、ステューピファイ!」
その読みは正しく、銀髪の彼はわたしに杖を向けて呪文を放ってきた。
彼の放った赤の閃光はわたしの左腕に直撃し、わたしの呪文は彼の身体全てをとらえる。
「ぐっ…!」
「うぁッ…」
彼が吹っ飛んでいくのを確認して、わたしはセブルスに手を伸ばす。
「セブ…ッ!」
「っスズネ、!」
セブルスと手が繋がれ、それからセブルスにギュッと抱き着いた。
3つのD、3つのD、3つのD…!
それだけを必死に考えて魔力を集中させると、バシン!と言う音と共にわたしとセブルスの身体は1つの点に吸い込まれていく。
あの人が狙ったのがわたしの左腕で良かった…。もし右腕に当たってたらきっと、わたしの呪文は彼に当たってなかっただろう。
グルグル回る意識の中で、そんなことを考えながら自然と閉じてくる瞼に身を任せた。
(絡みつく闇から逃れる)
[*prev] [next#]