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闇に染まる聖夜 [ 38/45 ]


***


わたしを此処に連れてきた銀髪の彼に案内されてやってきた部屋。
その中へ入るようにと背中を押されて、重くなる足を踏み出した。

パーティーに参加するだけで終わりじゃなかったのかな…。
あの女の人も、今わたしの後ろにいる彼も”あの御方”ってばっかり言う。
だからそれって誰。わたしに関係ある人なの?


「我が君、例の女をお連れ致しました」
「―…ご苦労だった。下がっておけ」


ひざまづき、深々と頭を垂れるその様子に異様さを感じ取る。
そしてそんな彼と言葉を交わしたであろう目の前の男に初めて目を向けた。


「な、…っ」


そこにいたのは、わたしと同じ色の瞳を持った男。
視線が合わさった瞬間、全身にゾクリと悪寒が走った。

分からない、何故か分からないけど。彼は…”危険”だ。
本能的にそう思ってしまえば身体は正直で、わたしの足は自然と後ずさりをしてしまう。


「貴様がスズネ・ユキシロか?」
「……あ、…っ」


ねっとりと耳に絡みつく低い声。
これだけの距離があるのにまるで耳元で囁かれているようなその感覚に、全身が恐怖を感じ始めた。

どうしよう、怖い…!
今すぐ叫び声を上げて、纏わりつくこの感情を吹き飛ばしたい。なのに口から漏れるのは、言葉ではなくただの音。


「ここからではよく見えぬな…来い」


人差し指でクイッと招かれるけど、わたしの足は動いてくれない。
床に縫い付けられた足を奮い立たせる力すら手に入らなくなって、わたしは何の反応もできずにいた。


「なんて失礼な奴なんだい!?我が君のご命令に逆らうんじゃない小娘が、っ」
「喚くなベラトリックス。いきなりこのような所へ連れてこられては無理もないだろう」
「ああ、我が君!なんてお優しい…。もしあの娘が無能だと分かれば私に抹殺のご命令を…!」


甲高い声で縋るように声を荒げているのはボサボサの長い髪を振り乱している女の人。
わたしを睨みつけては、赤眼の彼にうっとりとした眼差しを向けている。

今気付いたけれど、彼女の他にも真っ黒な格好をした人が数人、部屋の端に立っていた。
いざとなったら何とか逃げられればと簡単に考えてたけど、こんな四面楚歌状態じゃ…確実に無理だ。


「う、ひゃ…っ!?」
「私は待つのが嫌いだ」


思考を巡らせていると、いきなりグイッと身体が思い切り引っ張られて、気付けば彼のすぐ近くに膝をついていた。
アクシオ(呼び寄せ呪文)を人に使ったらどうなるのかって前に疑問に思ったことあるけど、こうなるんだ…ちょっと気持ちが悪い。

それから、顎を掴まれて無理やり顔を上に向かされ、間近でかち合う4つの赤。
彼の瞳はどこまでも暗く、どこまでも深い闇をその奥に秘めているように見える。

ヒュッと息を呑めば、彼はわたしから手を放す。


「報告では、貴様は杖なしで魔法を使い特殊な魔力を持っていると聞いたが…それは本当か?」
「…ま、魔力が特殊かどうかは分からない…けど杖が無くても魔法が使えるのは本当です」
「そうか。ならば見せてみろ」
「…見せる?」

「ああ、そうだな…そこにいる男を殺してみせろ。呪文は分かるな?」
「わ、我が君…!?」


彼に指を差された男の人が焦ったように声を上擦らせる。

"我が君"と呼ばれたこの人が何を考えているのかが理解できない、したくもない。
だってあの人は仲間なんじゃないの?どうして殺せなんて言えるの?
たとえわたしが許されざる呪文の1つであるそれを知っていても、人を殺すなんてこと絶対にするものか。

さっきまでの恐怖が一瞬で吹き飛んだような気がした。
わたしはキッと目の前で愉しそうに口元を歪めている彼を睨みつける。


「…殺さないですよ、わたしは」
「ほう?この状況で反抗するのはあまりお勧めしないが…」
「杖無しで魔法が使えるかを知りたいだけですよね?ただそれだけの為に人を殺すなんてこと、ありえない」


スッと右手の人差し指を、彼の目の前に突き出す。
すると周りで待機していた黒い人達が一斉に杖を取り出してわたしに向けた。

最悪の状況。なのに何でだろう、少しだけ、気分が高揚しているのが分かる。


「―…ステューピファイ!」


ズガァン…!!

わたしの指先から放たれた呪文は、彼に向かい、大きな衝撃音と共に辺りに砂埃をまき散らした。
完全に当たったと思われた麻痺呪文だけど、砂埃が払わればそこに彼の姿はない。


「…その魔力、なるほど。確かに貴様は私に相応しい」
「……っ、な」
「だがその行動は褒められるものではないな」


赤い閃光が、頬を掠めた。
ピリッと鋭い痛みが走り、血がツーッと首まで滴る感覚。

反射的に避けられたからいいものの、これをまともに喰らっていたら…。
そう思うと、やはり彼は相当の実力者であることが分かる。


「アバダ、」
「待て!手を出すな。手を出せば殺す」


さっき自分にわたしを殺させろと息巻いていた女の人が杖を振ろうとすると、底冷えするような彼の声がその行動を止めた。

そんなことよりあの女の人!躊躇いもなく死の呪文を放とうとしてた…!?
そもそも許されざる呪文はその名の通り、使うことを許されていない呪文のはず。
それを、ましてや人に向けて放つなんて…。


「…我が君、恐れながらその小娘は出生の分からぬ孤児。穢れた血ではないとは言い切れません」
「貴様らは感じぬのか?この膨大な魔力とその強大さを。それだけでこいつは生かしておく価値がある」
「っしかし!我が君に攻撃呪文を放った時点で万死に値します!やはり殺した方が、」
「ベラトリックス、貴様は異を唱えると?この私に」
「……ッ申し訳ございません、我が君…」
「この女は貴様らと比べ物にならない程の利用価値がある。マグル生まれや半血の者共を排除し、この魔法界を掌握する為のな」


この会話。
それを聞いて、ピンと何かに思い当たった。


「………、!」


もしかして、彼は。彼らは。


『”マグル生まれ”や“半純血”の魔法使いを良しとしない闇の勢力が、そいつらを日々粛清してまわってるって話』
『素敵な革命だろう?このまま闇の勢力が力を増せば、この魔法界には尊い純血の魔法使いしかいなくなるんだ』
『ああ。こんなに素敵な革命を起こしたあの御方の手足となって働くことができるなんて、こんなに名誉なことはないよ』


図書室で、そう言ってきたマルシベールの言葉。
この集団が、今魔法界を揺るがしている闇の勢力者たち。


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