攫われた彼女 [ 35/45 ]
***
髪色がピンクのままじゃ外には出られないからと、 午前中はセブルスと一緒に部屋に籠ってジェームズとシリウスへの”お返し”を考えながら過ごした。
セブルスは真っ先に最近作った呪文であるセクタムセンプラ(切り裂き呪文らしい)をあいつらへ喰らわせる、なんて物騒な考えを出してきたけどそれじゃあっちが大怪我を負う可能性があるから却下して。
至極不服そうに顔を歪めていたセブルスを見ると、本当に嫌いなんだなあと改めて思った。
「そういえば、リリーからのクリスマスカードに今日の午後こっちに遊びに来るって書いてあったよ」
「そうか。…チッ、やっと色が落ちてきた」
ピンク色だったセブルスの髪は徐々にいつもの黒に戻ってきたみたいで、ところどころピンク色なのがちょっとオシャレに見える。
なんてこと今のセブルスに言ったらきっと怒るから心の中でだけ思ってるけどね。
リリーからのクリスマスプレゼントである猫耳つきのニット帽を頭に被りながら他のプレゼントも開封していっていると、コンコンと窓を何かが突く音が聞こえた。
あ、もしかしてリリー来た?
わたしはタタッと足早に窓際に寄り、窓を開ける。
「あれ?フクロウ?…って、わあ!?」
「なっ、…ッ!」
窓を開けた瞬間にドバーッ!と流れ込んできたのは大量の封筒たち。
こんなに一気に手紙が送られてくることなんてある!?
ペチペチと顔や身体に当たる手紙が鬱陶しくてすぐに焼き払いたい気持ちに駆られたけど、未成年が学校の外で魔法を使うのは禁止されてることを思い出して留まった。
その気持ちはセブルスも同じなようで、完全に黒に戻った髪を手紙に弄ばれながらギリギリと杖を握りしめている。
「っもう、誰からなのこれ…!」
頬にくっ付いてきた手紙を手に取ってベッドの影に避難する。
セブルスは掛け布団で壁を作りながら大量の手紙たちと格闘していた。
「アブラクサス・マルフォイ…って、」
封筒に書かれた送り主には見覚えがある。
マルフォイ…んー確か、どこで会った人だったっけ?いや、そもそも会ったことある人なのかな。
とりあえず、と薔薇柄の金色シールで閉じられた封筒をペリッと剥がしてみると。
「………ん?」
さっきまで煩かった紙の擦れる音がピタリ、と止み。
シンと静寂が訪れて、わたしは首を傾げた。
なんだろう、何でか分からないけど手紙開けたら止まったっぽい。
「っ誰だお前は…!」
「そう喚くな。私はこのお嬢さんに用がある」
聞こえたのは、セブルスの声と聞いたことのない第三者の声。
その知らない声の主の姿が見当たらず、目の前のセブルスはわたし…というよりもわたしの後ろを睨みつけていた。
「彼女を暫し借りるよ」
「待て…!!」
「大丈夫、またすぐに会える」
「セ、セブ…っ」
「スズネ…!」
背後から誰かにぎゅっと抱き締められたかと思えば、そのまま身体が何かに引き込まれるような感覚に陥る。
必死に手を伸ばしてくるセブルスに、同じように手を伸ばしたけどその手が触れることはなく。
グルグルとその渦の中に引きずり込まれてしまった。
***
頭の中、そして内臓まで回るような気持ち悪い感覚が吐き気を呼び、ウッと口を手で覆って目を開ける。
「ここは…、」
「我がマルフォイ家の屋敷だよ」
「………!?」
あの時聞こえた第三者の声。
バッと振り向くと、サラリと揺れるプラチナブロンドが目に入った。
長い銀髪を後ろで一本に結い、切れ長で垂れ気味な瞳はアイスグレー。
全身を黒で包んだ彼は、見た目30代後半から40代前半くらいのおじ様だ。
マルフォイには聞き覚えがあるけれど、この人に見覚えはない。
彼はわたしと目が合うと何故だか顔を強張らせて目を見開いていた。
「…これは、確かにルシウスの報告にあった通りだ」
何やらブツブツ呟く彼は本当に怪しい。
一体誰、何でわたしを此処に連れてきたの。セブルスは?
「ああ、心配せずとも君の友人は後から来ることになっている」
「…何が目的、ですか?」
「ふふ、なに簡単なことさ。Ms.ユキシロ。君には今夜開かれる我が家のパーティーに出席してもらいたい」
「なんでわたしの名前…っていうかパーティー?」
コクリトと頷いた彼はわたしの背中にそっと手を添えて、上下に撫でてくる。
なんだかよく分からない、けど。
セブルスも後から来てくれるらしいし、ここから帰るにしても帰り方が分からないし…。
本当にただパーティーに出るだけなら、それを終わらせてとっととセブルスと一緒にお暇させてもらおう。
ただ…もし万が一があれば、それが違反行為だとしても魔法を使わざるを得ないかもしれない。
杖は忘れてきてしまったから杖なしになってしまうけど、きっと事情を話せばきっと分かってもらえるはずだ。
「レディに手荒なことをしてすまなかったね。実は君と君の友人には前から招待の手紙を送っていたのだけど返事を頂けていなくてね…っと、いつまでも立ち話をしている暇はないのだった。さあ、Ms.ユキシロ。パーティーの支度もあることだし中へ入ろうか」
ニコリ、ニヤリ。
どちらとも捉えられない笑みを浮かべた彼をジトリと見やり、わたしは気持ち悪さの引いてきた身体を動かして彼の後をついて行った。
(足を踏み入れる)
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