クリスマスイブ [ 33/45 ]
***(セブルス視点)
スズネが浴びているであろうシャワーの音が少し遠くで聞こえるリビングで、僕は一枚の手紙をジッと睨みつけていた。
差出人は、ルシウス・マルフォイ。
彼が在学中の時もそうだったが、卒業した後もこのような”勧誘”がくるのは珍しくはない。
きっと今回のも、明日の12月25日のクリスマスパーティーに参加しろという招待だろう。
パーティーという名目の、死喰い人勧誘の場。
以前までの僕ならばこの誘いに乗っていたかもしれない(何れにせよパーティーは好まない)が、僕の心は未だに迷いを持っていた。
本当にこのまま闇の道に進んでいいものか。
悩んで、そしてこの間、マルシベールが勝手にスズネに誘いの言葉をかけていたのを思い出してチッと舌打ちをする。
これから先も彼女と一緒に生きられたら、それほど素晴らしくて幸せなことはないと思う。
だが、それが光の中ではなく闇の道というのであれば話は変わってくる。
「はあー…」
スズネには闇に堕ちてほしくはない、でも自分がそうならないとは限らないし、寧ろそちらの可能性の方がとても高い。
僕が、死喰い人になると言ったらスズネはどんな反応をするだろうか。
そこまで思い悩んで思考して、小さく首を振った。
せっかくのスズネと過ごす休暇なんだ。今は、こんなことを考える時じゃない。
手に持っていた手紙を開けることなく、暖炉の中へ放り込み、一瞬火力を増した炎をしばらく見つめていた。
「えいっ!」
「―…っ!?」
いきなり額への衝撃と痛みが走り、僕はそれをした犯人である彼女をジトリと見やった…が。
目の前で僕の顔を覗き込むスズネの姿にすぐさま息を呑んだ。
風呂上りで上気して火照った頬に、水滴の滴る漆黒の髪。レンズを外した元通りの紅い双眸。そして半袖短パンという薄着のせいでいつも見えない白い肌がこれでもかというほど視界を占める。
…これに見惚れない奴は男じゃない。
ドキドキと心臓が煩く鳴り始めたのを彼女に悟られないように、とりあえず身体の熱を下げようと氷の溶けきった薄いアイスティーを口に含んだ。
「セブルス、すごい難しい顔してたよー」
カラカラ笑いながら僕の隣に座るスズネの胸元やら太股やらに嫌でも目がいってしまい、僕は慌てて目を逸らす。
そもそも、こんな真冬にそんな薄着をする奴があるか…!
しかも恋人である僕の前でその格好は、レギュラスが言っていたように”美味しく召し上がれ状態”だ!
そんな僕の葛藤など露知らず、スズネは僕が先程まで飲んでいたアイスティーの入ったコップに口をつけながらチラリと僕を見てくる。
「セブルス、」
「な、なんだ…」
「わたしからのクリスマスプレゼントなんだけどね?」
「………っ!」
段々と近付いてくるスズネの顔に、なけなしの理性がフル動員。
これだから天然はタチが悪いんだ…!
段々と腹が立ってきた、と思っているうちにスズネの腕が自分の首の後ろに回される。
「はい!どうぞ!」
「…は、え?」
「え、どうしたのセブルス!顔真っ赤…」
僕の頬にひんやりとしたスズネの手が触れたのと同じくして、自分の首に巻かれた暖かさに気付いた。
手に取って見てみると、深緑と黒をベースにした大き目のマフラーなのが分かる。
…これを巻く為に身体を寄せてきていたのか。
邪な勘違いをしていたことに気付いて、僕は今すぐ自分の頬を殴りたくなった。
「これね、首に巻いてここに手を入れると手袋にもなるやつなんだ」
マフラーの両端は手を入れられるようになっているらしく、そこに手を入れてニコニコと笑っているスズネに気が抜ける。
セブルスいつも寒そうだもん、なんて呟いている彼女にはぜひとも今の自分の格好を見てほしい。
大きく息を吐いて、それからスズネのくれた暖かいそれを首からとる。
「ありがとう、スズネ」
「ううん。本当は自分で編んでみようかとも思ったんだけど、ちょっと時間がなくて…」
ごめんね、と申し訳なさそうに言うスズネに苦笑して僕は小さく首を横に振った。
「来年は編んでみようかな。マフラーはそれがあるから、んー…ニット帽とか!白いボンボンとかつけたら可愛いかも」
「…それは勘弁してくれ」
「ん、冗談冗談!」
そう言ってニッと笑ったスズネに、何だか悔しくなって、彼女の首かかっていたタオルを手に取って髪をぐしゃぐしゃにしてやる。
それでも楽しそうに笑うスズネがいて、僕は胸が暖かくなるのを感じた。
…どうしようもなく愛しく想う彼女と、願わくば。
(同じ未来を歩きたい)
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