クリスマスイブ [ 32/45 ]
大きなチキンに山盛りサラダ、具だくさんのシチューにクリスマスケーキ。
セブルスと一緒に作ったそれらを食べ尽くた後、わたしはソファにダイブした。
「た、食べすぎた…」
「…さすがに作り過ぎたな」
「セブルスと一緒に料理できるなんて初めてのことだったし嬉しくて…張り切ってしまいました」
食べてすぐ寝ると豚になるだか牛になるだか。
そんな謂れを頭の片隅に追いやってソファに横になれば、隣に座ったセブルスがわたしの手を取る。
「スズネ、メリークリスマス」
「え、あっ!プレゼント?」
手の上に乗せられたのは小さな箱で、水色にキラキラのラメが散りばめられた可愛らしいラッピングがされているものだ。
セブルスとこうして一緒にクリスマス休暇を過ごせていること自体プレゼントみたいなものなのに、こんな贅沢…許されるのかな。
キュンと胸がいっぱいになって顔に熱が集まってくる。
わたしはガバッと起き上がって、セブルスと向き合った。
「開けていい?」
「…ああ。そういった物を買うのは初めてだから、気に入ってもらえる自信はないが…」
「そんな!セブルスがくれる物なら百味ビーンズのハズレ味でも嬉しいよ」
セブルスの声が少し不安そうに聞こえたから、安心させるように半分本気の冗談を言えばセブルスは表情を柔らかくして『嘘つけ』とぼやいた。
それから丁寧にラッピングを解いていき、中から出てきた白い箱を開けると。
「わあ…」
細いシルバーのチェーンのトップに輝く、菱形の赤い宝石。
部屋の照明に近付けて見てみると、その輝きはより増して…とても綺麗だった。
わたしの瞳と同じ色。
みんなが怖がって気味悪がったこの双眸も、こんな輝きを放っているのだろうか。
しばらく赤い宝石に魅入っていると、セブルスがわたしの手から箱を取り上げて中からネックレスを取り出した。
「付けていいか?」
「…うん。お願い」
セブルスに背中を向けて首筋を晒すと、ヒヤリとした冷たさが一瞬だけ首に触れてビクリと小さく身体が跳ねる。
そして、わたしの胸元に輝く赤。
それを見た瞬間、胸がいっぱいになって感情が溢れて。
「セブルス…」
「スズネ?なに泣いて、」
「ありがとー…!」
「う、わ…!」
バッとセブルスに抱き着いて、しくしく泣く。
「気に入ってくれたようで安心した…」
「ずっとずっと大切にする!」
気に入ったなんてもんじゃない。本当に、本当に嬉しいし、わたしの一生の宝物になった。
セブルスの手が優しくわたしの背中を撫ぜるから、その温かさにまた涙腺が緩んできてグッと胸に顔を押し付けているとセブルスがわたしの顔を上げさせる。
うわ、今絶対変な顔してる。
セブルスにこんな顔見られたくないー、と顔を下げようとしても強い力でガッチリと顔をホールドされていて動かせない。
「スズネ、」
「…な、っ!」
不意に、唇に押し付けられた熱。
今回のキスは、1回目よりもとても長く…そして深かった。
「んん…っ」
セブルスの舌が口の中に入ってきて、呼吸をする隙も与えないくらい何度も何度も口を塞がれる。
こんなの初めてで、恥ずかしくてすごく身体が熱い。
さっきの流していた涙とは違う種類の涙が目尻に浮かんで視界をぼやけさせ、胸が苦しくなってきた。
や、ばい…苦しくて意識飛んじゃそう…!
あまりの苦しさにセブルスの胸を叩けば、やっと解放してくれる。
「はあ、はあ…っ」
「スズネ」
「す、ストップ!」
「………?」
「セブルスはわたしを殺す気!?全然息できなくて死ぬかと思ったよ!」
「鼻で息をすればいいだろう…」
「そ、んなの考えてる余裕なかったんだよ…。セブルスはどうか知らないけど、わたしはあんなの初めてだったんだしさ…」
セブルスが今みたいなキスを初めてじゃないとしたら、それはそれでかなりモヤッとするけど。
だって他の女の人としたことがあるってことになるし…。
気になるけど知りたくない。
そんな複雑な感情で溜め息を吐いていると、セブルスがわたしの手を強く握ってきた。
「…僕にとっての恋人はスズネが初めてだと言っただろう。だから今みたいなことだって、スズネとが初めてだ」
「…本当に?なんか慣れてるような余裕があった気が、」
「余裕なんて!…余裕なんてあるはずないだろう」
小さくなっていったセブルスの声。
ハッとしてセブルスの顔を見てみると、きっと今のわたしに負けてないくらい赤くなっていた。
お互いに顔を真っ赤にさせた男女2人。
この状況がなんだかおかしくなってきて、わたしが笑うとセブルスも肩を竦めてちょっとだけ笑う。
「セブルス大好き」
「…僕もだ」
***
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