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2人きりの休暇 [ 31/45 ]


***[セブルス視点]




家族の暖かみも何もないこの家に、スズネが居るというだけでどうしてこんなにも心が満たされるのだろうか。

トランクの中身を整理しながら取り出すスズネを眺めながら、小さめのグラスにアイスティーを注ぐ。


「ねえねえ、セブルス見て!」
「なんだ?」
「じゃーん。どう?カラーコンタクトつけてみたんだけど…」


タタッと僕に駆け寄ってきたスズネが背伸びをして僕の顔を見上げてくる。

二重だけど切れ長気味の特徴ある彼女の瞳に魅せられながらも、その中を見てみるといつもの赤はそこにはなく薄いブラウンに染められていた。
その奥に少し赤みがあり、美しいグラデーションになっている。


「リリーのご両親は怖がらないでいてくれたけど、そんな優しい人たちばかりじゃないと思うからさ。怖がらせちゃっても悪いし、買っておいたんだ」


ちょっと違和感あるね、と苦笑して目薬を差すスズネの頭をそっと撫でた。

赤い瞳は確かに珍しいものだし、処によっては災いをもらたすとして忌み嫌う者もいる。
だが僕はスズネのその瞳が好きだった。
いつも真っ直ぐで、優しく輝く、その赤が。


「僕は好きだ。スズネのことも、その眼も」
「…ははっ、もうセブルスは本当にわたしが喜ぶことばっかり言うんだからさー。そんな優しいセブルスがわたしも大好きだよ」


少し瞳を潤ませたスズネが嬉しそうに笑い、そのまま僕の胸に飛び込んでくる。

まさか去年はスズネとこんな関係になろうとは思いもしなかったが、本当にスズネと出会えて良かったと思う。
僕は、こんなに幸せでいいのだろうか。


「そうだ!今日の夕飯どうする?一応クリスマスイブだけど…」
「考えてなかったが、買ってこないと家には何も無いな」
「ふむ。それなら、食材買ってきてクリスマスディナー作ってみようよ!」


ナイスアイディア、とパチンと手を叩いて目を輝かせるスズネ。
菓子作りが得意な彼女のことだからきっと料理も上手いのだろうと勝手に憶測する。

スズネの手料理が食べれる。
これほどの機会を逃すわけにもいかないだろう。


「片付けが終わったら出掛けるか」
「うん!何作ろうかなー。ケーキにプディングにタルトに…」


甘いものばかりを呟くスズネに呆れるが、楽しそうに笑う彼女に自分までそういう気持ちにさせられる。
そして、好きという気持ち以上の想いが溢れて零れそうになった。

きっとこの感情は、"愛おしい"だ。


「セブルス…?」


スズネの頬に手を添えて見つめていると、少し頬を赤く染めた彼女が同じような僕を見つめる。

…上目遣いは、反則だろう。

揺れ動く理性にブンブンと首を横に振って、不思議そうに僕を見るスズネの頬に自分の頬をくっつけた。


「これは、挨拶?」
「…いや、そうじゃないが…」
「するならココにお願いします」


トンと血色のいいふっくらとした唇に人差し指を添えて、首を傾げて僕を見てくる。

これをわざとやってるのだとしたら相当タチが悪い。
僕は深く息を吐いて、心を落ち着かせ、スズネに触れるだけのキスをした。


「なんか、照れる…!」


自分から誘ってきたくせに顔を覆ってしゃがみ込む彼女に、僕は笑ってしまった。

おそらく去年以上のクリスマス休暇になるだろう。
確信にも似た期待と共に、スズネと過ごす休暇が始まった。



(誰にも邪魔されない時間)


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