甘くなる日々 [ 24/45 ]
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スリザリンのクィディッチ選手に加わったレギュラスは、とても気合いを入れて練習に取り組んでいた。
「はあーすごいなー、あんなに自由に素早く飛べるなんて」
「そういえば、スズネが箒に乗っているのは見たことがないな。乗れるのか?」
「…聞かないで」
セブルスの質問に答えた後、クィディッチの競技場でクルクルと飛び回るレギュラスをチラリと一瞥して、膝の上の本へと視線を落とす。
あれは忘れもしない、日本の魔法学校へと入学して早々の出来事だった。
初めての飛行訓練で内心とてもワクワクしながら箒に跨ったまでは良かったんだけど、その瞬間…箒が木っ端微塵に吹き飛んでしまったのだ。何度違う箒に変えてみても結果は同じ。
「ということで、わたしは箒にまともに乗ったことは今までで一度も無いんだよね」
「…魔力が原因か?」
「んー、そうかも。あの時はまだ制御を知らなかったし」
もしかしたら箒なんて使わなくて飛べるんじゃないかとか考えたこともあったけど、さすがに危険だと思ってやめた。
箒を木っ端微塵に吹き飛ばす、なんてことしてたらそりゃ怯えられるよね。
ただでさえこの瞳の色で怖がられて気味悪がられてたのに、それに拍車をかけた出来事だったなぁ。
「飛びたいのか?空」
「どんな感じなんだろうとは気になる」
「後でレギュラスにでも乗せてもらえばいい」
「…いいの?」
「なにがだ?」
「レギュラスに乗せてもらうってことは要するにふたりで箒に乗るってことでしょ?普通に密着しちゃうと思うけど…」
「…今の話は無しだ。僕が乗せてやる」
そう言ってグッと眉間に皺を寄せたセブルスが可笑しくて思わず笑いが零れた。
隣に座るセブルスの肩にちょこんと頭を乗せて、目を閉じる。
風に乗ってふわりと香るセブルスの香りに小さく微笑んでいると、セブルスの頭がわたしの頭とコツンと当たったのが分かった。
「スズネ」
「んんー?」
「次のクリスマス休暇なんだが…」
「うん」
「僕の家に来ないか?」
「せぶりゅ…噛んだ」
「…っかわ、!」
初めて会った頃より少し低くなってきたセブルスの声が耳に心地良くてついウトウトしてしまい、まどろんだ意識のまま返事して変に噛んだ。
この位置からじゃセブルスの顔は見えなかったけど、なんだか少しそわそわしてる。
「今年のクリスマス休憩中、両親が家にいないらしい。ホグワーツに残ってもいいが、」
「それってお泊まりってこと?」
「…それだと嫌、か?」
「ほんとに!?」
「うわっ」
セブルスの家でセブルスとお泊まり。
そんなの嬉しいし楽しみに決まってる!
リリーの家にお泊まりしたことはあったけど、セブルスの家には行ったことなかったし。
「あれ、セブルス?」
「ッいきなり起き上がるな!びっくりしただろう!」
「ご、ごめんって…」
どうやらセブルス家お泊まりへの歓喜でバッとわたしが立ち上がったせいで、セブルスは地面にコテっと倒れていた。
お、ちょっと貴重なセブルスだ。
「お泊まりがすごい嬉しくて舞い上がっちゃった」
「…喜んでくれたなら、いい」
「楽しみだねー、セブルス」
倒れたままのセブルスの隣にわたしもパタリと寝そべって、セブルスにグッと身体を寄せた。
「…っ、顔が近いぞ」
「だめ?」
「だ、めとかでは…」
ぎゅうっとセブルスに抱きついて、首筋にスリスリ。
少し恥ずかしかったけど、今はただこの嬉しい気持ちとセブルスを好きって気持ちをこうした行動で表したかった。
「明日のハロウィンは騒がしくなければいいな」
「またセブルスにお菓子作るね」
「…紅茶クッキー」
「あはは、うん!任せて」
(好きな人と過ごす時間)
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