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恋人と少女の消失 [ 22/45 ]




マグルに杖向けるなって前にシリウスに言ってたじゃんセブルスー…!ダメだよ魔法使ったら!

ブンブンと必死に首を横に振って見せたけど、セブルスは一瞬杖を下ろそうとして…結局杖を構えることをやめなかった。


「サクライ、スズネを離せ」
「うるさいわね!あたしは納得できるまで引かないわよ!」


セブルスに目を向けることなく、キッとわたしを睨んだままのサクライさん。
納得と言われても、聞かれてる事の意味が分からないのにどうやって何を納得してもらえばいいのか見当もつかない。

セブルスはピキリと青筋を立ててめちゃくちゃ怒ってるし。


「セブルス、ダメだよ」
「余計なこと喋ってないで説明しなさいってば!」
「…っ、ステューピファイ」
「―…あっ!」

「ハーイ、そこまでぇ」


セブルスの杖から呪文が飛んだ瞬間、この状況に似つかわしくない間延びした緊張感のない声が聴こえた。

そして、セブルスの呪文を相殺しようと伸ばした右指に何かがチョンと触れる。


「ごめんねぇ?」
「…あ、はい」


わたしの人差し指に触れたのは、その声の主である女性のほっぺだった。

真っ白い髪に真っ白い肌、そしてスカイブルーの瞳。
小学生くらいに見える幼い顔立ちをした彼女は、わたしの顔を覗き込んで謝罪し、軽やかにサクライさんとわたしの間に割って入る。

そしてサクライさんから解放されて気づいたことがある。
それはセブルスが杖を構えたままの状態から、ピクリとも動いていないこと。


「セブルス…?」
「あー、ちょっと時を止めてるのぉ。貴女には効かなかったみたい。主人公補正かなぁ?」


うふふ、と笑う彼女が不気味で警戒心を抱いた。

サクライさんも、この子も訳の分からないことばかり言う。
一時的に何かの動きを止める魔法はあっても、時を止める魔法は確か無かったはず。


「ユキノちゃん、ごめんねぇ?ワタシ間違えちゃったの」
「…何よ間違えたって」
「飛ばす、世界を間違えちゃったのぉ。この世界にはもう決められたヒロインがいるんだよぉ」
「な、なによそういうことだったのね!もう、無駄に焦ったじゃないのよ。あ、ごめんね!そういうことならあたしも納得するわ」
「痛っ…」


ケロリとすっかり機嫌の良くなったサクライさんがバンッと思い切りわたしの背中を叩く。

うー、ジンジンする…めっちゃ痛いー。
というか飛ばす世界を間違えたとかヒロインとか本当に意味不明すぎて頭が追い付いてない。

すっごく現実味のない話だけど要するに、サクライさんは別の世界から来た人で、本当はここじゃない世界に行くはずだったのが何かの手違いでこの世界に来てしまった…的な?


「もしかしてこの世界のヒロインって…」
「そうだよぉ。ここにいる、スズネちゃん!」
「へえ。まあいいわ。とりあえず早くあたしを本来飛ぶべき世界に飛ばしてもらえる?」
「ハーイ。じゃあ、いくよー?」
「あ、ちょっと待った!」


あの小さい身体でヒョイッとサクライさんをおんぶした女の子にビックリしていると、サクライさんが何やらわたしに手招きをしている。

恐る恐る近づくと、花柄の可愛らしい小さな手帳を手渡された。


「原作知識ないとかかなりキツいだろうし、勘違いしたお詫びにそれあげるわ。親世代までの知識しか書いてないし、めちゃくちゃ簡略化してるけどね。違う世界でも、好きなキャラ達が死んでいくのは嫌だし。助けられるかどうかはあんた次第だけど。ま、精々あんた自身も死なないように頑張ってよ!」

「え、あ…ちょっと!」
「じゃあねえー!」


手を伸ばした先にはもうあの2人の姿はなく、静寂が訪れる。
最後の最後まで、サクライさんの言った言葉の意味を理解することは叶わなかった。

ホグワーツで姿くらましや姿現しはできない。
なのに目の前から一瞬のうちに消えたというのは、やっぱり違う世界から来た人達だからなのだろうか。

それになんか死ぬとか死なないとか物騒な単語が聞こえたような気もするけど、サクライさんは一体全体何のことを言ってたんだろう。


「ー…スズネ」
「あ、セブ…んっ!」


後からセブルスの声が聞こえて振り返ると、セブルスの顔が目の前にあって、そして一瞬だけ口に柔らかい感触がした。

え、あれ…まさか今のって。


「…〜っ!?」


不意打ちもいいところなんだけど!
心の準備もそんなの一切関係なしですか!?

恐らくセブルスの唇が触れたであろう自分の唇に指を添えて、わなわなと震えていると頬をほんのり染めて照れているセブルスが目に入った。


「不意打ち過ぎませんか…?」
「照れてるのか?」
「そ、それはセブルスもでしょ!」
「…そうだな」


ふっ、と口元を緩めて笑むセブルス。

さっきまでブチ切れてたとは思えない程の切り替えの速さでビックリする。
というかサクライさんがこの場にいないこと不思議に思ってないのかな?


「セブルス、あのさ…サクライさんなんだけど」
「…サクライ?誰だそれは」
「えっ?」


サクライさんを、知らない?
冗談で言ってるのかと思ったけど、『男か?』と若干不機嫌そうに聞いてくるあたり本当に知らないみたいだった。

違うと否定しながら、考えてみる。

セブルスの中のサクライさんの記憶が消えてるってことなのかな。
サクライさんがこの世界の人ではなく別の世界の人で、さっきこの世界からいなくなっちゃったから記憶が消えたってこと?

セブルスの中でのサクライさんの存在が消えてしまったから、あの時サクライさんが登場する前の状況でセブルスは止まってて…だから時が動き出してすぐにチューしてきたとか。

でもそれじゃあ何でわたしはサクライさんのことをこんなにもバッチリ覚えてるんだろうか。


「スズネ、」
「ん?」
「そんな手帳持っていたか?」


セブルスに言われて、そういえばサクライさんに渡されたんだったと花柄の手帳を眺める。

なんだか少し、中を見るのが怖い。
この手帳を渡される時に確か物騒なこと言ってたし、さすがに捨てたりはしないけど…部屋のどこかに仕舞っておこうかなコレ。


「…誰かの落とし物みたいでセブルスが来る前に拾ったんだ。後で先生に届けておこうと思って!」


サクライさんのことを覚えてないセブルスに、サクライさんから渡されたと言っても理解してもらえないだろうし適当に誤魔化した。

それからセブルスと一緒に森を出て城に戻り、他の人にもサクライさんのことを聞いてみたけど誰一人として彼女のことを覚えてる人はいなかった。



(思いがけないファーストキス)


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