痛いきっかけ [ 13/45 ]
***(セブルス視点)
「告白したの!?」
「っリリー!声が大きい…!」
まるで悲鳴のような声を上げて目を輝かせるリリーを引っ張って、人が少なそうなところまで連れてくる。
周りに人がいるようなところで暴露した僕も僕だが、無神経に大声を出したリリーもリリーだ。
不意に目が合ったポッターの口がニヤリと愉しげにひん曲がったのが見えて、心の中で盛大に舌打ちをした。
「やったじゃないセブ!まさかセブに限ってこんなに早く行動を起こすなんて思ってもみなかったけど…もちろん上手くいったのよね?ハッ!もしかして昨夜はお楽しみ?」
「…ッ、やめてくれ」
1人で勝手に盛り上がるリリーに、なんとも惨めな気持ちになってきて語気が弱くなる。
上手くいってもいないし、かと言って失敗かも分からない。
今日が休日で良かったと本当に思った。
もし普通に授業のある日だったならば、こうしてリリーに相談に来る前にスズネと顔を合わせざるを得なかっただろう。
「セブ?…スズネはOKしたんでしょう?」
「……いや、」
「嘘!フラれたの?」
「フラれた…わけでもない、と思うが…」
黙り込む僕を見て『もう!煮え切らないわね!ハッキリしてちょうだい』と苛立つリリーに、あの時のことを掻い摘んで伝えた。
それを聞いたリリーは少しだけ考え込むと、やれやれといったように肩を竦める。
「それね、スズネはただ自覚してないだけよ」
「自覚?」
「ええ。スズネがセブルスに抱く好きは、セブルスと同じ好きよ。彼女はあなたを特別に想ってるもの」
確かな自信を持ったリリーの表情に、少し安心する。
スズネも、僕のことを特別に想ってくれている。
それが知れただけでももう十分なのではないかとも思えてきた。
「きっとスズネも今頃すごく悩んでるはずよ。何か、セブルスに対する好きと私やブラック弟に対する好きとは違うと自覚させるようなきっかけがあればいいのだけど…」
「リリー!行くわよー?」
「あ、ええ!…ごめん、セブルス。ホグズミードから帰ってきたらまた詳しく話しましょう?」
友人に呼ばれたリリーがこの場から離れていき、その場には僕1人になった。
スズネに自覚してもらうようなきっかけ、か。
「………」
いい案など思いつくはずがない。
そもそも僕自身、こんな感情を誰かに抱いたのは初めてのことなのだ。
…何が正解で何が不正解かなんて分からない。
ただ不安なのは、僕が気持ちを伝えたことでスズネとの関係が今までより悪い方向に変化してしまうこと。
「いつも通りに、接してみるか…?」
数分考えた結果、この手の事には極めて疎い自分がいくら頭を捻ろうと無駄なような気がしてきた。
とりあえず今日はスズネとの接触を避けてリリーから話を聞き、明日にはスズネと顔を合わすことができるのが理想だ。
「…図書室にでも行くか」
今頃、スズネは何をしているのだろうか。
***(ヒロイン視点)
セブルスから告白(たぶん)をされた次の日。
何となく顔を合わせづらいと思い、朝も昼も隠れた厨房からひっそりパンやスープをくすねて自室に籠っていた。
「はあ…」
誰かを好きだという感情には、色々な意味が込められているとセブルスは言っていた。
わたしがセブルスを好きという気持ちと、セブルスがわたしを好きだという気持ちは違うのだとも。
そこがよく、分からない。
セブルスはリリーのこともわたしのことも好きだけど、リリーへの好きとわたしへの好きには違いがあって…わたしは特別なのだと言う。
その違いはなに?どうしてリリーの好きとわたしへの好きが違うの?
「分からないよ、セブルスー…」
テーブルの上にバタリと突っ伏する。
ホグワーツに来るまでの今まで、こんなに人と関わったことも友達と呼べる人達ができたのも初めてのことなのに。
好きには色々あるなんて言われても、分かるわけない…。
だけど。
「………」
レギュラスへの好き、セブルスへの好き。
全く同じ感情かと聞かれたら、否定も肯定もできないと思う。
それが『好き』の感情の違いからくるものなのかは分からないけど、きっとわたしにとってセブルスの存在はすごく…特別なのかもって。
だからといってじゃあこれがセブルスの『好き』と同じものなのかと聞かれても、これもまた否定も肯定もできない。だって…分からない。
「あーもう、ムカつく…!」
誰にって、自分自身にだ。
セブルスはすごく真剣にわたしに想いを伝えてくれて、返事も待つって言ってくれてるのに…わたしはいつまでも『分からない』ばかり。
本当はすぐにでもリリーに相談したかったのに、今日はグリフィンドールの友達と早くからホグズミードに出掛けてるらしく捕まらなかったのが悔やまれる。
[*prev] [next#]