パーティーの告白 [ 11/45 ]
***
行き着いた先は人気(ひとけ)のないバルコニー。
季節はもうすぐ冬に入ろうとしていることもあり、肌に触れる風はとても冷たい。
思わずブルリと身体を震わせれば、セブルスは何も言わずに自分の上着をわたしへと羽織らせてくれた。
本当に、優しいなあ…セブルス。
ありがとう、と小さく呟いて上着を肌へ寄せればそこから一気に熱が広がるようにして不思議と寒さを感じなくなる。
「………」
「………」
セブルスと一緒にいる時、お互いに無言の時間があったりもするけどそれを決して居心地悪いと思うことはなかった。
でも今は、この静寂が落ち着かない。
セブルスに引かれた手が、未だに離れることなく彼と繋がれたままだからだろうか。
そろそろ何かアクションが欲しい…。
そう思って隣のセブルスを見ると、セブルスもわたしを見ていた。
「―…スズネ」
「な、なに…っ?」
低くなりきれない掠れた声がわたしを呼び、妙に熱っぽく感じるセブルスの眼差しにドキリと胸が鳴る。
魔法薬の調合をしている時や本を読んでいる時とは違う真剣さを持つ黒の瞳。
「伝えたいことがある」
「…伝えたい、こと?」
「ああ。…僕は、スズネのことが好きだ」
繋がれていた片方の手は、いつの間にか両方ともセブルスの大きな手に包まれていた。
今まで、セブルスから『好き』だと言われたのはこれが初めてだ。
嬉しくなって、セブルスの手をキュッと握り返して笑う。
「わたしも。わたしもセブルスのことが好、っ」
「僕がスズネに抱く『好き』は…スズネが僕に抱くものとは違う」
わたしの言葉を遮ったセブルスに腕を引かれて、抱き締められる。
セブルスの言葉の意味を理解しようと思考を巡らせたいのに、こんなにも身体が密着した状況じゃ頭がうまく回らない。
セブルスから聴こえてくる心音は、わたしと同じで少しだけ安心する。
「好き、には…色々あるってこと?」
「…誰かに対する『好き』という気持ちには人それぞれ様々な想いが込められているのだと、僕も最近知った」
「様々な想い…」
「リリーに対して抱く感情と、スズネに抱く感情は違う」
「…セブ、!」
わたしを抱き締めるセブルスの腕にギュッと力が込められる。
ドキドキし過ぎて、胸が痛い…このまま死んじゃいそう。
「僕はスズネを特別に想っている。…僕の恋人になってほしい」
「セブ、ルス…」
「僕がスズネに抱くのは、そういう『好き』…なんだ」
セブルスが瞼を伏せると同時に、コツンとわたしとセブルスの額が軽くぶつかる。
その瞬間、言い表せない感情がブワッとわたしを襲った。
セブルスのことは大好きだし、ずっと一緒にいたいと思う。
だけど、これがセブルスがわたしに想ってくれている『好き』と同じ想いなのかが自分で分からない。
セブルスに、何て言葉を返したらいいのかも…分からない。
「…返事は、別にすぐじゃなくていい」
「セブ。あの、わたし…」
「僕は待つ。………冷えてきたな、そろそろ中へ戻るぞ」
そうして、セブルスの温もりがすっと離れていった。
前を歩くセブルスの背中を見つめながら、肩に羽織られた彼の上着をギュッと握り締める。
まさかセブルスに告白、される…なんて。
「……っ!」
そう改めて自覚して、今すぐリリーに泣きつきたくなった。
(『好き』って難しい)
***(セブルス視点)
スラグクラブのパーティーを終え、スズネと気まずい雰囲気のまま別れて自室のベッドに座り込んだ。
…違う。今日は、そんなつもりじゃなかった。
パーティー会場に現れたスズネに向けられるたくさんの視線、声をかけるタイミングを見計らっている男共。
そして、ひねくれ者の僕とは違いスズネを素直に褒めるレギュラスとその言葉に嬉しそうに笑う彼女。
「はああー……」
その状況に焦燥感を抱き、早まった結果があれだった。
こんなにも早く、あんなにも早く…スズネに想いを伝える気はなかったというのに。
『セブ。あの、わたし…』
そう言って、視線を彷徨わせて必死に何か言葉を紡ごうとするスズネの困ったような顔を見て『しまった』と思った。
無駄に格好つけて返事は待つなど言ったが、あの様子では望みは希薄かもしれないな…。
着替えることも忘れて、思わず頭を抱えて考える。
明日からどうスズネと接したらいいのか、あの告白をなかったことにされるのは嫌だがあれを気にされ過ぎていつものように共に過ごせないのも嫌だ。
「……、」
明日にでも、リリーに相談してみるのがいいのかもしれない。
今後の行動を考えるのはそれからでも遅くはない、はずだ。
「…着替えるか」
何度目になるか分からない溜め息を吐いて、ゆっくりと立ち上がった時。
窓の外を誰かが歩いているのが見えたような気がした。
(『好き』に込められた想い)
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