パーティーの告白 [ 9/45 ]
スラグクラブのパーティーは、学校行事の方と被らないように月初に開催されるらしい。
10月1日の今日が、そのパーティーの日だ。
つい3日前に届いた、まだ封も開けていないドレスとアクセサリー類を持って、わたしは初めてグリフィンドール寮に足を踏み入れた。
「わー…」
スリザリン寮のクールで落ち着いた雰囲気とは違い、赤や黄色などの暖色で彩られた寮内はとても明るく見える。
スリザリン生であるわたしがグリフィンドール寮に入ってもいいものなのかと最初は不安だったけど、何回か言葉を交わしたことのある人達は普通に話しかけてきてくれたし思ったより拒絶されていないようでホッとした。
それもやっぱりグリフィンドール生の多くはスリザリンが嫌いみたいで、良い顔してない人もたくさんいたけどね。
「さあ、スズネ。ここに座って?」
「う、うん…」
リリーを含めた4人の相部屋へ着くと、数本のブラシを手に持って目を輝かせるリリー。…なぜかとても気合いが入っている。
「私、密かに思ってたの。スズネにお化粧してみたいって!」
「今までしたこともされたこともないなぁ。あんまり濃くなくお願いします…」
「ええ!任せて。今日の日の為に、メイクの勉強したんだから!」
たくさんの化粧道具を並べて、リリーは嬉しそうに笑う。
本当は化粧とか、それこそあんな綺麗なドレスとかあんまり興味もないし化粧に至っては出来ることならあまりしたくはない派ではあるけど…。
リリーが嬉しそうで楽しそうだし、たまにはこういうのも良いかな。
「元のままでも十分綺麗だけど、もっと綺麗になってセブルスをビックリさせるわよ!」
「リリーは?」
「私はスズネが終わってから!この日のためにカメラも新調したのよ。覚悟しなさい、スズネ」
「か、覚悟ってなんの…!?」
***(セブルス視点)
ついにこの日が来てしまった。
急遽家から送ってもらった着なれないドレスローブを身に付けて、パーティー会場の前でスズネを待つ。
服装は変ではないだろうか。髪型は。
普段なら気にもしないようなことがそわそわと気になってしまうのは、パーティーへ共に行く相手がスズネだからなのだろう。
エイブリーやマルシベールに、服装や髪型について相談することになる日がくるとは思っていなかったが。
『その調子でユキシロと仲良くやってくれよー』
『君がユキシロと恋人同士になれば、彼女もこちら側へ来やすくなるからね』
あいつらの余計な一言が頭をよぎり、反芻する。
違う。僕はそんなつもりでスズネをパーティーに誘ったわけじゃない。こっち側とかこちら側なんかどうでもいい。僕はただ、スズネのことが…。
「セブルスー!」
「…っ、!」
コツコツと聞き慣れないヒールの音と、聞き慣れた彼女の僕を呼ぶ声。
俯かせていた顔をほぼ反射的に上げて、視界に映ったスズネの姿にクラリと眩暈をしそうになった。
僕の選んだ純白のドレスがさらさらと揺れ、普段見ることのないキュッと締まった腰のくびれと太股あたりから入ったスリットから見えるスラリと長く白い足。
最近伸びてきたとボヤいていた髪は緩く巻かれていて彼女の頬でウェーブを描いている。
僕だけじゃない。男女関係なしにこの場にいる誰もが、スズネの姿に息を呑んでいた。
「―…お待たせ」
僕の目の前までやってきたスズネがそう言って微笑む。
彼女の頬にのせられたピンク色が、その笑みを何倍にも引き立てた。
「セブルスー?おーい、どうしたの?…もしかしてわたし、なんかどっか変なとこある!?」
いつもと違う容姿のスズネだが、その素振りに変わった様子はない。
いつも通りのスズネに何故か安心して、ようやくホッと息を吐いて落ち着くことができた。
心臓に、悪すぎるだろう…それは。
バクバクと激しく音を立てる鼓動は、周りにも聞こえているんじゃないかと錯覚するほどだ。
「っわー…」
「…?スズネ?」
僕をまじまじと見るスズネは、それが化粧ではないと分かる程に顔を紅潮させる。
そして、顔をバッと両手で覆ったかと思えば勢いよくしゃがみ込んだ。
「スズネ!?具合でも悪いのか…?」
僕も彼女の傍にしゃがんで恐る恐る背中に手を添え、顔を覗き込めば、あの綺麗な赤とカチリと目が合う。
「セブルスが、」
「…僕が?」
「元々カッコイイとは思ってたけど…。今日はいつもよりもう、かっこよすぎて。セブルスがセブルスじゃないみたいなのに、でもセブルスのままで…ああもう何言ってるのか分からなくなってきた。でも、うん。セブルス、その服装も髪型もすごく似合うね」
思わず見惚れちゃった、と口を手で覆いボソボソと恥らいながらそう言うスズネ。
「…、バカか」
「え、なんで。人がせっかく恥ずかしい思いしながら褒めたのにー!」
好いている相手からそんなこと、言われて。…嬉しくないわけないだろう。
素直に喜んだらいいものを、そうなれないのが僕という人間だと自分で理解している。
スズネは僕にバカと言われて少し膨れていたが、ゆっくりと立ち上がった彼女は唇を尖らせてチラリと僕を見た。
「セブルス、わたしは?」
「……?」
「わたしのこの格好どう?似合う、かな」
似合ってないわけではない。いや、似合いすぎるくらい。
しかしあの雑誌で見ただけのものをスズネが着ると、こうも変わるとは予想外だった。
そもそもあんな風に大胆にスリットが入っているとは思ってなかった。あのドレスの詳細をきちんと見ずに選んだのが悪いのだが。
それに先程から周りの男の視線がスズネのそこにばかり集中しているのが、実に気に食わない。というのが唯一のデメリットだろうか。
「セ、ブ、ル、ス!」
「…っすまない。少し考え事を…」
「…似合わないなら似合わないって正直に言ってくれていいけどさ、これセブルスが選んだんだから少しくらいフォローしてくれてもいいじゃんか」
スズネの表情がどんどん落ち込んでいくのに気付いて、僕はハッと彼女の手をとった。
「似合っている、に決まっている。…僕も、スズネに見惚れてたんだ…落ち着くのに少し時間を要しただけで…」
小さい声で紡いだ本心は、スズネに届いただろうか。
そう不安に思って彼女を見れば、照れたように、嬉しそうに笑っていた。
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