恋心と謎多き青年 [ 7/45 ]
「次にトム・リドル…」
「僕のことが知りたいのかい?」
「、っびゃ!?」
聞き覚えのある声が聞こえたかと思えば、氷のように冷たい手がわたしの頬に触れて思わず声を上げた。
少しだけ遠くでピンス司書の怒鳴り声も聞こえて、身を小さくする。
久しぶりというほどでもない彼の登場に、戸惑いを隠せない。
気配も感じなかったし、一体いつの間に隣に…。
「…あなたって、ゴーストなの?」
「違う。僕は死んでないからね」
「じゃあなんで突然現れて突然消えるの」
「それは僕が、ゴーストとは似て非なるものだからさ」
「よく、分からない…」
思い切り顔を顰めてしまっていたのだろう。
トム・リドルはクツクツと喉で笑いを零し、わたしの向かいに腰かけた。
「分からないだろうね。近いうちに知ることにはなるだろうけど」
「…じゃあ質問変える。あなたはこうやって度々わたしの前に現れるけど、何が目的?」
開いていた本をパタリと閉じて、トム・リドルの赤い瞳を真っ直ぐ見つめ返せば彼の笑みは深くなる。
「魔力の供給と…そうだな、スズネに興味があってね。君のことをもっとよく知りたいんだよ」
グッと顔を近付けてきた彼はわたしの耳元でそう囁くように言った。
耳に吹きかかる息に無意識にピクリと身体が反応して、少し気持ち悪い。
「…とりあえずさ、わたしのことが知りたいなら友達になる?」
「―…は、?」
「だってわたしもあなたのこと分からないから知りたいと思うし、それなら友達になって方が色々知れるんじゃないかと思ったんだけど…だめだった?」
目を見開いたまま固まってしまった彼に、何かおかしなこと言っちゃったかなと冷や汗が垂れた。
トム・リドルが固まって少し経ち。
「く、あははっ…!」
いきなり吹き出したかと思えば、大爆笑された。
うわ、そんな大きい声で笑ったらピンス司書に怒られるじゃん…!
わたしまでとばっちりを喰らうのはヤダ、と咄嗟に彼の口を両手で塞いだけどマダムの怒鳴り声は一向に聞こえてこない。
もしかして、この人の姿も声もわたしにしか見えてなくて聞こえてない?
「友達、ね。うん、そうしよう。僕と君は、今この瞬間から友達だ」
「…なんで笑われたのか謎だけどね。よろしく、ト…っ」
トム、と呼ぼうとしたら今度はわたしの口を彼の手が塞ぐ。
「僕のことは、リドル。そう呼ぶんだ」
「…は、い」
わたしの口に触れる彼の手はやっぱり恐ろしい程に冷たくて。
そして鋭利な刃物のように鋭さを増した赤眼にスッと見据えられる。
わたしと同じ赤色のはずなのに…鏡に映る自分の瞳とは全く別物に見えたそれに、得体の知れない恐怖が全身に纏わりつくようだった。
「ごめん…」
シリウスと同じように、この人は自分の名前を呼ばれることが嫌なのかもしれない。
わたしが小さく『よろしく、リドル』と言い直せば、満足したように口角を上げて口から手を離してくれた。
ホッと息を吐いたのも束の間、次に目の前に視線を向けた時にはリドルの姿は消えていた。
「あ、消えた。いきなりだなあ…」
「スズネ!探したわ。こんな隅っこにいたのね」
「…リリー」
そう言ってわたしの隣に座ったリリーを見て、リリーが来たから消えたのかと思ったけど。どうせわたし以外に姿が見えないなら消える必要もないんじゃ…。
そこまで考えて、そういえばこの間リドルと初めて会った時はセブルスに彼の姿は見えてたはず。
だって『あいつはだれだ』とか聞いてきたような気がするし。
やっぱりよく分かんないなー、リドルって何者なんだろう。
「さ、スズネ。ここではきちんと話せないだろうから、貴女の部屋に行くわよ!」
「ん?何か話があるの?」
「何言ってるのよ!スラグクラブのパーティーに来るんでしょう?スズネのことだからドレスとかアクセサリーとか持ってないんじゃないかと思って、私のお気に入りのお店からカタログを取り寄せたのよ」
じゃーん!とリリーが見せてきた雑誌の表紙には、煌びやかなドレスやネックレス・ブレスレッドなどいかにも女の子が好みそうなものばかりが載っている。
ヒクリ、と顔が引き攣ったのが分かった。
「これ、どうしても着ていかなきゃダメなの…?」
「当たり前じゃない!スズネのドレス姿なんて滅多に見れないだろうし、私が完璧に仕上げてあげるわよ。ああ、楽しみね!もっと性能の良いカメラでも買おうかしら…」
なんで、カメラ?
それから興奮して声が大きくなったリリーがマダムに怒られて、わたしも一緒に図書室からつまみ出されてしまった。
リリーをジッと見ればちょっと困ったように笑って小さく謝ってくれた。
ぐぬぬ、そんな表情のリリーも美人さんだからずるい。
どっちかと言えばリリーのドレス姿の方がすごく見たいような気がする。だって絶対に綺麗だもん。
「スズネには何色がいいかしらねぇ…」
スキップしそうな勢いなリリーに苦笑して、そのあとを追いかけた。
『僕は黒か赤が良いと思うな』なんてリドルの声には聞こえないフリをして。
(セブルスは何色が好きなんだろう)
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