恋心と謎多き青年 [ 5/45 ]
女性らしくなった、というセブルスやリリーの言葉はあながち間違いじゃないのかもしれないと少しだけ自覚。
だけどそれには訳があって…。
「好きです。僕と付き合ってくれませんか!」
「あ、えっと…ごめんなさい」
名前すら知らない男子生徒から呼び出されることが多くなり、その内容も今のように交際の申し込みがほとんどだった。
…恋、なんてしたこともないしよく分からない。
でも名前も知らない顔もよく知らない人と恋人になるだなんて、それが間違っていることくらいは分かるけど。
「スズネじゃないか、偶然だね!」
「…偶然、なのかな?」
「偶然さ!僕たちは今ここへ来たばかりだからね」
「ふーん。さっきからそこの茂みからクルクルな黒髪が見えたり見えなかったりしてたけど…」
名前も知らない人からの告白をお断りして、中庭にボーッと立っているところに現れた悪戯仕掛人の4人。
ジェームズは「バレてたか…」と苦笑しならが頬をかいていて、わたしは小さく笑いを零した。
「それにしても、スズネのモテ具合は今年に入って勢いを増したよね」
「…まあ、見れなくねえ顔だしな」
「シリウス、本当に君は素直じゃないねぇ」
リーマスがからかうように言えば、いつものように吠え出すシリウス。
モテ具合と言うけど、実際わたしのどこが良くて好きになってくれているのか理解ができないのが事実。
だって話したこともないし、名前も知らない人だよ?それで好きになるって、本当によく分からない。
「世の中にはね、面食いってのがいるんだよスズネ」
「めんくい?」
「そ!その人の外見が良ければそれだけで好きになっちゃうような人」
「…なにそれ変なの」
「ま、シリウスもその面食いからは絶大な人気を誇っているよ。ほら、黙ってれば顔はかっこいいからね」
黙ってればってなんだ、と予想通り今度はジェームズに噛みつくシリウスを見て『黙ってれば』に妙に納得してしまった。
というかシリウスに限らずみんなかっこいいし、可愛いし綺麗だと思う。日本人とはまた違った顔の整い方で、わたしからしたらみんなハリウッドスターのような顔立ちだし。
「おまえ、オッケーする気はねえんだろ?」
「うん。だって告白してきてくれる人みんな顔も初めてみたような人ばっかりだし」
「…そっか」
「あーあー。分かりやすくホッとしちゃって」
「っ!黙ってろよジェームズ!バカ!ボケ!」
「なっなんだって!?そこまで言うことないだろう!」
杖を取り出してじゃれ合いを始めたシリウスとジェームズを見ていたら、リーマスが「まだまだ子供だね…」と息を吐きながら呟いていた。
「あ、ピーター」
「…えっなに?」
「口の端にケチャップついてるよ?朝ポテトでも食べた?」
「っ、あ!えっ…!」
ピーターの口についたケチャップを親指の腹で拭いて、その指をどうしようかと思ったけどハンカチも持ってなかったしペロリと舐める。
うへー、やっぱりわたしポテトには塩がいいな。
そう思って顔を歪めていると、目を見開いているリーマスと顔が真っ赤なピーター、そしてさっきまでじゃれ合っていた2人までわたしをあんぐりと見つめていた。
「…な、なに?」
「スズネ、まさかそういうこと誰彼かまわずしてるわけじゃねえ…よな?」
「そういうこと?」
「…はあ、こりゃ好きになっちゃう人が多いのも分かるよね」
「スズネ、とりあえずハンカチはきちんと持ち歩こうか?」
「う、うん…」
怖い顔をしたシリウスとリーマスに呆れ顔のジェームズ。よく分からない。
「君、好きな人とかいないのかい?」
「好きな人?」
「もちろん異性でね」
「異性で好きな人?いるよ」
『……!?』
「君たちのことも好きだと思う。まあ一番はもちろんセブルスだけど」
だから意地悪しないでね、と付け加えてわたしはその場を後にした。
次の授業の教室へ向かう途中でセブルスと合流すると「またか?」とだけ聞かれて、わたしは浅く頷いた。
そうすると、いつも寄ってる眉間の皺がもっと深く刻まれてセブルスは少し怖い顔になる。
あの4人もセブルスも、なんか変なの。
「…気に食わねえ」
「ねえ、思ったんだけど。シリウスってスズネのこと…」
「す、好きじゃねえよまだ…!」
「ふーん。まだ、ね」
「リーマス顔こわい」
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