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君の一生


***(リドル視点)



夏季休暇に入ったホグワーツからは人が消えた。
そして僕もそのうちの1人で、今日はカヤと母さんの墓参りに行く日だ。


「カヤ、荷物はそれだけ?」
「そうだよ。でもこの鞄、アブさんが拡張魔法をかけてくれたから見た目より物がたくさん入ってるんだ」


魔法って本当に便利だね、と何回聞いたか分からない言葉を発したカヤ。

ダンブルドアの弟なんかの魔法がかかった鞄を彼女が持ち歩いていることを不快には思ったが、今咎めるのはやめにする。
今日をとても楽しみにしていたカヤに水を差すようなことはしたくはない。


「しっかり掴まってなよ、カヤ」
「う、うん…!」


僕より断然小さいカヤの身体をグッと引き寄せた。
これからする初めての付き添い姿くらましに緊張しているのか、硬い表情のまま僕の服をギュッと握るカヤが愛おしい。

ふわりと鼻孔をかすめる彼女の香りを堪能するように自分の腕の中にすっぽり抱き締めて、頭にキスをひとつ。


「ちょ、トム!はやくー…!」
「んーもう少し」
「後にしてー!絶対見られてるでしょ…!」


腕の中のカヤが恥ずかしがって小さな力で抵抗してくるが、今の状態を変える気はない。

見られてる?むしろ都合がいい。僕のカヤなのだと周りに知らしめることができる。
先程からチラチラとカヤを見る他の男共が鬱陶しくて仕方なかったところだ。


「…チッ」


あいつらの目に麻痺呪文でもかけてやろうか。

そんなことを思いながら、改めてカヤを支える腕に力を込めて姿くらましをするために3つのDを思い浮かべる。


「行くよ?」


返事をする代わりにと言わんばかりに僕にぎゅうっと抱き着いてきたカヤにふと微笑んで、ホグズミード駅から姿をくらました。





***(ヒロイン視点)


姿くらましって、レベル高い。
まだ頭の中がグルグル回るような感覚に気持ち悪さを覚えながらも徐々に落ち着きを取り戻す身体をトムがちゃんと支えてくれた。


「ん、ここにメローピーさんのお墓が?」
「いやここにはない。母さんの墓の場所を聞きにきた」


目の前には茶色の煉瓦で造られた小さな建物。
入口である門には『ウール孤児院』と表札に刻まれている。

ここはもしかして、とトムを見上げると彼は小さく息を吐いていた。


「母さんはここで僕を産んで、そして死んだ。その後、母さんがどのようにして葬られたか僕は知らない」
「…そうだったんだ。トムは両親の顔は知らないの?」
「母さんの手荷物の中にあったという写真だけ渡されて一度見た。けど、その後すぐに暖炉へ放り投げたな確か」


思い出すように顎に手を添えて呟いたトムに苦笑する。

まあ、自分を捨てたという両親の写真なんて見ても何とも思わないし持っていたいとも思わないよね…。わたしもそう思うもの。
というかわたしの場合は周りから人殺しと思われていたから、両親の写真なんて仮に欲しいと言ってももらえるわけなかっただろうし。

別にもういいんだけどね。今さら両親のことを知りたいだなんて思わないから。


「とっとと用事を済ませよう」
「あ、うん!」


変なこと考えてるのがバレたのか、トムはいつもより強い力でわたしの手を引っ張った。
ぎゅうっと握られた手は少しだけ痛かったけど、手から伝わるトムの暖かさにホッと安心する。

そしてトムに手を引かれながら孤児院の門をくぐった。