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彼の我儘



早速、ホグワーツから出てトムが卒業するまではどこかで働きながら生活がしたいということをディペット校長とダンブルドア教授に伝えた。

ちなみにトムは今、授業中。
自分も一緒に報告しに行くと言っていたけど、学生の本業は勉強なんだから!と朝から弁舌を繰り広げたことを思い出して小さく笑う。


「その様子だとトムはその話に納得したようだね。彼ならば断固として引き留めると思っておったが…」
「トムは、信じることも愛だと言ってくれたんです」


そう言ってくれたトムを思い出して薬指にはまる指輪にそっと触れれば、教授と校長はやれやれと肩を竦めていた。

惚気ている自覚はあったけど、そんな反応されると少し羞恥がわく。
ふう、と熱を持ち始めた顔を手で仰いでいるとダンブルドア教授が長い髭を撫でながらわたしを呼んだ。


「一応聞いておくが、宛はあるのかね?」
「…とりあえず、お金はあるのでどこかお部屋を借りながら働き口を探そうかと」
「ふむ…。マグルである君が魔法界で職を探すとなると…些か、いやだいぶ難しい」


働き口を探す、なんて簡単に思っていたけれどどうにも違うらしい。
ダンブルドア教授に続いて口を開いたディペット校長によれば、魔法使いの多くはマグルの存在を歓迎しないと言う。

トムのようにマグルに何らかの恨みを持ってマグルを嫌う者や、単純に魔力を持たないマグルを卑下する者。
理由は様々だが、魔法界での情報をマグル界へ漏らされる可能性があることも懸念されているらしい。

それならマグル界、要するにわたしが今まで住んできた所と変わらない環境下で仕事を探す他ないんじゃ…。
これはもう一度トムに相談するしかないかもしれない。

そう思うけど、ただでさえこのホグワーツから出て今よりトムから離れることになるのにこの魔法界じゃなくマグル界に住んで働くなんて…どんな反応が返ってくるか怖くて言えない。


「ああ、どうしよう…」


マグルであるわたしを好きになってくれたトムだけど、マグルが嫌いだという根本は変わっていないらしいから。

もうマグル達の中で生活するのは二度と御免だ、なんて眉間にシワ寄せながら呟いてたこともあったし。


「なに、そんなに悩むことではない。私に1つ宛があってね。聞いてみてあげよう」
「本当ですか…!?」
「ああ。しかし私は彼にそれはもう嫌われていてな…上手くいくか分からんが」
「嫌われてるって…」
「まあ、あ奴も腕のある魔法使いだ。ホグワーツで教師をしていたこともある。魔法界で必要な知識も共に学べだろうし一石二鳥!」


その人に嫌われているというのに何故か楽しげに笑うダンブルドア教授に苦笑する。
生徒の子達もそうだけど、ホグワーツって個性的な人が多いなあ。


「ではその件はアルバスに任せるとしよう。わしは…そうじゃのう。ミスのお別れパーティーでも盛大に開くことにするかのう!」


ディペット校長はパン!と手を叩いて、こちらも楽しそうに笑っている。
いつも思うけど、ディペットさんってとてもおちゃめなお爺ちゃんだ。


「…本当に、君がトムと出逢ってくれて良かった」


そんな中、ダンブルドア教授がしみじみとそう呟くのが聴こえた。

きっとこの人は少なからず、トムの孤独と闇を理解してくれていたんだと思う。
トムは教授のことあまり好きじゃないみたいだけど、教授はトムのことをとても気にかけてくれていたようで嬉しくなる。


「わたしも、トムと出逢えて本当に良かったです」


ダンブルドア教授に応えるようにそう口にすれば、自然と顔が綻んだ。

ほんと、どんだけトムのこと好きなんだわたしは。自分でも呆れるほど、わたしの頭の中にはいつもトムがいる。


「結婚式にはぜひ呼んでほしい」


もう何回言われたか分からないその言葉に『トムはわたしと2人だけでひっそりやりたいみたいですよ』と答えれば、トムは意外とロマンチックのようだと教授は笑っていた。