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愛と信頼



後輩たちに勉強を教えてほしいとせがまれているトムを少しだけ離れたところから微笑ましく見つめる。

前にダンブルドア教授から聞いたけど、トムはだいぶ変わったらしい。

今までは仮面を被り、自分を偽っていたというトム。
だけど今は、自分の感情のままに行動するようになり随分と丸くなったと教授は言っていた。

それがわたしと出逢ったことによる変化であるのならば、これほど嬉しいことはないと思う。


「なにニヤニヤしてるんですの?」
「ヴァルちゃん。ニヤニヤじゃなくて、ニコニコだよ」


トムの友達であるオリオンくんの婚約者であるヴァルブルガちゃん。
とても気品漂う美人さんなのだけど、こうして話してみるととても可愛らしい一面も持っている。
美人で可愛いって、そりゃオリオンくんもベタ惚れなわけだ。

中庭でティータイムにしましょう、なんていかにも貴族らしいお誘いに乗って紅茶を啜っていた時に冒頭の状況のトムが現れたところだった。


「いいんですの?」
「ん?なにが?」
「あのままにしておいて。リドルは今までもよくモテていたし、今でも変わらずモテますわ。そんなに余裕ぶっこいてますと、他の女に盗られましてよ?」
「余裕、ぶっこくって…」


言葉の節々が少し荒っぽくなる。これもヴァルちゃんの特徴。
わたしは苦笑しながら、他の女に盗られる、ねぇ…と考えてみる。


「んー、ないな」
「…ない、とは?」
「他の子に盗られることはないってこと」
「まあ、随分と自分に自信がおありなのね」
「んー、自信なのかなあ。…なんか、トムとわたしは今後ずっと離れることはないって謎の確信があるんだよね」


手に持っていたティーカップを受け皿へ戻し、カチリと音が鳴る。

その時、不意に視線を感じてそちらへ目を向ければ『彼』と目が合う。
わたしはそれが嬉しくて小さく手を振ると、『彼』はふんわりと微笑んでくれた。


「…目の前でイチャイチャしないでくれますこと?」
「だって、トムの視線を感じたからつい…」
「ふん。ま、リドルのあの様子ですと先程の言葉も間違いではないのかもしれませんわね」
「あの様子?」
「あんな表情、リドルは貴女にしか見せませんことよ」


クスリ、と笑ってヴァルちゃんはクッキーを頬張る。
季節は12月に入り、雪もちらほら降り出して気温は低い。

寒いはずなのに、ヴァルちゃんの言葉を聞いてなぜか身体はポカポカと熱を持っていた。


「―…カヤ」
「トム、」


いつの間にあの後輩たちを振りきったのか、トムの声がすぐ隣で聞こえた。


「こんな寒いところに長い時間いたら風邪をひく。中に戻るよ」
「あ、ちょっとリドル!わたくしはまだカヤとお茶の続きがあるのよ!?」
「頬が冷たい。外に出るなら防寒はしっかりしておくんだ」


怒るヴァルちゃんを無視するトムは、わたしの頬に手の甲で触れて、それからカバンから取り出したマフラーを首に巻いてくれる。

ほんのりトムの香りがして安心する…ってわたしは変態か。


「人前でイチャイチャすんなって言ってんですのよ…!!」
「うわ、ごめんってヴァルちゃん!落ち着いて!」
「ぐっ…いいのかしらリドル?カヤって、けっこう人気あるのよ?男から。貴方もそうやって余裕ぶっこいてると彼女、盗られるわよ?」


さっきわたしに言ったのと同じ言葉をトムに投げかけるヴァルちゃん。
トムは、少しだけ考える仕草をしてすぐにフンと鼻で笑う。


「ないな」


それは、わたしとまったく同じ返事だった。


「カヤが僕以外を好きになることはないという確信がある」
「…ま、まあ間違ってはないけど。そういうトムは、」
「僕?愚問もいいところだ。僕にはカヤだけ。他の女なんか必要ない」


さも当然だというように言い放ったトムは、わたしの前髪をかき分けて露わになった額にキスをしてくる。

トムがいつもこうやって、想いをストレートに伝えてくれるからわたしは不安や心配なんて抱かずにいられるんだと思う。
いつもトムからの『好き』が伝わってくるから、確信できること。


「…っ、結婚式には必ず呼ぶのですわよ!?」


ヴァルちゃんはそう叫んで、杖を素早く振ってティーセットを仕舞うとこの場からピューッといなくなってしまう。


「式はカヤと2人だけでひっそりとする予定だったんだけど…」


隣で溜め息を吐きながら呟くトムに、思わず笑ってしまった。