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君が一番



「わ、待って待って。みんなめちゃくちゃ可愛い綺麗…!本当にお人形さんみたい!」


カボチャの良い香りが漂うホグワーツではハロウィンのイベントが行われていて、生徒たちがみんな思い思いに仮装を楽しんでいた。

それを見つけたのは『今日はハロウィンでご馳走だから大広間で夕食をとればいい』というトムの言葉に甘えて、久しぶりの大広間へ足を運んだ時だった。

イギリス女子、かわいい。その一言に尽きる。


「ちょ、何よ大声出して…!」
「いやもう可愛い。というか美人さんだねえ…。ほんと羨ましい」
「…っふん、当たり前じゃない」
「カヤさん、あたしはあたしは?」
「え?って、ちょっとなにそれナース?似合ってるけど刺激が強いからとりあえずもう少しスカート長くしなさい」
「えへへっ」


とにかく仮装した女の子たちがみんなモデルさんみたいに可愛いし綺麗すぎて、褒め倒しまくる。
あの大人っぽさでまだ成人してないって…末恐ろしい。

褒められて満更でもないのか、わたしを嫌ってるであろう女の子たちも今日はそこまでトゲトゲしてないしハロウィン素敵!
いつの間にかたくさんの仮装した女の子たちに囲まれたわたしは、念のため用意してきたキャンディーやらチョコレートを配る。


「…あんたも、なんか着ないの?」


いつの日かわたしの髪を魔法でバッサリ切ってくれた女の子がちょっとぴり頬を染めながら聞いてきた。

きっとさっきこの子のこともベタ褒めしたから、今は機嫌良いんだろうなあ。
わたしは苦笑しながら小さく頷く。



「わたしは君たちほどもう若くないからね。こんないい歳こいてコスプレなんてとてもじゃないけどできないかなー」
「…でも、トム…じゃなくてリドルは見たいんじゃないのかしら。あんたの仮装」
「………え、」
「な、なによ…っ」


トムの恋人であるわたしをあれだけ目の敵にしていた彼女が、まさかそんなことを言うなんて。
驚きすぎて言葉が出てこないでいると、彼女はキッとわたしを睨みつけてきた。


「あのね!私だって馬鹿じゃないんだからさすがにもう分かったわよ!あんたとリドルの間に入る隙なんてないことくらい」
「………うん」
「癪だけど、悔しいけど諦めるわ。リドルのこと。だから安心してちょうだい?それに私、失恋は初めてじゃないし引くときは潔いから」


吹っ切れたように小さく息を吐いて、それから頬を緩めた彼女になんだかわたしが泣きたくなった。
ここで謝ったら彼女のプライドを傷つけてしまうことになるからごめんなんて言わない。


「…ありがとう。あなたのこと誤解してたなあ、わたし。すごく良い子じゃん」
「なっ、ちょっと…やめなさいよ!崩れるじゃない!」
「ね、名前教えてくれる?」
「…ユリアよ。ユリア・セルゴーン」


わたしが撫でまわしたせいで崩れた髪型を直しながら、そう教えてくれたユリアちゃん。
彼女の持つカボチャ型のバスケットには他の人よりもたくさんお菓子を入れておいた。


「−…カヤ」


ユリアちゃん含めた女の子たちとしばらくキャッキャしてたら、トムの低い声に呼ばれてビクリと肩が揺れる。


「トム、」
「そろそろカヤを返してくれる?君たちのじゃなくて僕のだから」


グサリ、と持っていたフォークをチキンに突き刺すトムはそれはもう静かにキレていた。
トムのにっこり笑顔、怖い。


「ごきげんよう、リドル。ところでお聞きしたいんだけど、貴方もカヤさんの仮装見たいわよね?」
「仮装?」
「ええ。そうね、貴方がヴァンパイア、もしくは狼男と仮定するならば…ピッタリのものがあるわ」


ユリアちゃんとトムが見つめ…いや、睨み合っている。
なにこの状況、というかわたしは仮装なんてしないよユリアちゃん!トムも黙ってないで早く断ってください。

そして、そんなわたしの心の叫びが届くことはなく。


「カヤ、また後でね。楽しみにしてる」
「…へ、え!トム!?」
「さあ、恋人のお許しも出たことだし行くわよ。見たい人はついてらっしゃい」
『いきまーす!』
「ちょ、やめ…っコスプレなんかしないー!!」