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彼の友達



「めっちゃ緊張した…!」
「また言ってる。これで何度目か知ってる?」
「3回?」
「昨日の分も入れて7回だ」
「なんで数えてるの…」


リドルが制服のネクタイを締めながら得意げに鼻を鳴らした。

わたしが緊張したと言ってるのは言わずもがな昨日、たくさんの人の前で自己紹介したことだ。
あんなにいっぱいいるとは思わなかった。
しかも美人さんとイケメンばっかりでヤバい、わたし浮く。


「それにしてもトムってちゃんと仲の良い友達いたんだね!」
「…なにそれ喧嘩売ってる?」
「そ、そんなんじゃないけど…。トムは1人の方が好きそうだし、なんとなく」
「まあ、ね。あいつらは別に嫌いじゃない」


トムってば素直じゃないなあ。
クスクスと小さく笑いを零していたらトムはちょっと顔をムッとさせて、わたしの布団をバッと剥いできた。


「ひゃ、さむっ」
「いい?次こそはきちんと大人しくしてるんだ。ホグワーツの中を見たいなら次の休みに僕が案内してあげるから」
「え、ほんと?」


トムを見上げてそう問うと、トムは珍しく目までニッコリと笑ってわたしの耳に顔を寄せる。


「本当。だからいい子にしてて、カヤ」
「っひゃああ…!?」


耳元で囁かれて、息を吹きかけられて、挙句の果てには耳を咥えられた。

あ、朝から刺激が強すぎるから…!
耳を抑えてトムを睨めば『参ったな、これから授業なのに…』とかよく分からないことを呟いている。


「ほ、ほらもう授業でしょ?早く行ってきなさい!」
「―…カヤ」
「ん、っ」
「じゃあ、行ってくる」


ちゅうと唇を吸われて、それからトムは部屋を出ていった。

こっちの世界に来てからというもの、トムは…なんかこう前にも増してベッタリというかなんというか。
幸せだし嬉しいことなんだけど最初とのギャップがすごい。

初めて会った時なんかわたしに杖向けて『許されざる呪文の中でどれがいい?』とかなんとか言って、脅してきたりとかしたのに。


「ふふっ…」


それがちょっと面白くて小さく笑いを零し、わたしはとりあえず着替えようとベッドから這い出たのだった。




***



トムが置いてってくれた様々な本のおかげで、部屋での時間も意外と退屈せずに過ごせていた。

特に魔法生物についての本はすごく興味をひかれて、ドラゴンとかグリフォンとかいつか実際に見ることができるかもしれないという興奮もあって時間を忘れて読み耽ってしまった。


「んんーっ、と」


ずっと同じ態勢で長いこといたからか身体が痛い。
うんと伸びをして時計を見れば、もうすぐでお昼になる時間だった。

もうすぐでトムがくるかなあ。
本の内容について色々聞いてみたいこともあるし、今日はトムとの会話がいつも以上に弾みそう。

コン、コン。


「…ん?」


少し散らかったテーブルの上を片付けていると、控えめなノック音が数回聞こえた。

トムならノックなんてせずに入ってくるし…誰だろう。
あ、もしかしたら校長先生がダンブルドア教授かもしれない。


「はーい!今開けますー」


パタパタと扉まで駆けていき、鍵を開けた。


「あ、…」
「ご機嫌いかがですか?東洋からのお客様」


扉を開けたそこには、透き通るようなプラチナブロンドの長髪を首元で緩く結い、切れ長で少し垂れた目の下のホクロが印象的な美男子さんがいた。

アイスグレーの瞳がとても綺麗で思わず魅入ってしまう。

それに、この美形さんは見たことがある。
わたしがお広間で紹介された時に、トムと一緒に会話をしていたトムの友達だ。


「こ、こんにちは。あの…わたしに何か?」
「ええ。立ち話もなんですから、お部屋へお邪魔しても?」
「あ、えーっと…」


笑顔のまま顔が少しだけ引き攣る。

トムには自分以外は部屋に入れるなと言われていた。
だけど相手はあのトムの(きっと数少ない)友達…邪険にはできないというのもある。

どうしようと迷っているうちに、銀髪の彼はニコリと笑うと勝手に部屋の中へと入って行ってしまった。


「ちょっ、勝手に…!」
「トムは今、授業終わりに教授に捕まっていてあと10分は来ません。その間に貴女にいくつか聞きたいことがあります」


どうぞ座って、と優雅に椅子に促される。
言われるままに大人しく座ってしまったけど、ここ一応わたしの部屋なんですけど…。

「君、名前はなんていうのかな?」
「ああ、申し遅れました。私は純血魔法族の名家マルフォイ家の長男、アブラクサス・マルフォイです」
「…ご丁寧にありがとう」


とても良いところの坊ちゃんってことね。なんだかトムとは違う種類のこう…オーラを感じる。