小説 | ナノ
×
- ナノ -


幸せの形



ホグワーツの制服もそのままに校長室へ辿り着き、ダンブルドア教授を交えて先程の出来事を話せばディペット校長に愉快そうに笑われた。


「そんなに睨まないでおくれ。近々君のことは生徒たちにも紹介せねばらんと思っていたところじゃ。…いやはやそれにしても学校一のモテ男を恋人に持つ君にとっては前途多難じゃのう!」
「しかしミス。君はマグルなのだから周りをあまり刺激してはいけないよ?今回は髪だけで済んだかもしれないが、次は首が飛ぶなんてことも…」
「…ひっ、!」


ダンブルドア教授がニンマリ笑いながら杖をチラつかせてくるものだから、咄嗟にトムの後ろへと隠れる。

唱えるだけで人を死なせてしまうような呪文があるくらいだし、彼の言うとおり魔法使いが本気を出せばわたしなんか一捻りなんだろう。
…怖すぎる。わたしはまだ死にたくない。


「2人してカヤを怖がらせないでください。それに君の首が飛ぶ前にそいつらの首は僕が飛ばすから安心して、カヤ」


いや、過激すぎてなんにも安心できないんだけど。
トムなら本気でやりそうで不安になる。

まあ、わたしも大人なんだし何か言われても反抗せずに適当に流しておければいいんだけなんだよね…。
そう思ってはみるけど口達者なあの子たちに今日のようにまたバーバー言われたら、また言い返してしまうかもしれない。

わたしにも魔法が使えたら怯えずに対等に向き合えるのに、と落胆の息を吐いた。


「それにしてもよく似合ってるのう」


ディペット校長がわたしに向かって杖を振り、短くなった髪を元に戻してくれながらそう呟く。

引かれなくてよかった!と安堵してスルスル伸びていく髪を眺めている間、ダンブルドア教授とトムは何やら会話していた。


「あなたでしょう、クローゼットにあんなもの入れたのは」
「はて、身に覚えがないな」
「…白々しい」
「制服姿のカヤを見れて万々歳ではないかね?トムや」
「っ、腹立つ」


何話してるんだろうと首を傾げながらトムを見てれば、大きく息を吐いた後にわたしを見て「おいで」と手招きされる。

髪の魔法も終わったようでディペット校長にお礼を言い、トムの近くに寄れば首元に手を回されてそのままネクタイをキュッと結んでくれた。
え、わたしこれから部屋に戻って速攻着替えようと思ってたんだけど…。


「今日の夕飯の時にでも大広間で皆に紹介しようと思う。アルバス、時間近くになったらお嬢さんを迎えにいってあげなさい」
「了解したよ。さてトム、次は私の授業だろう。サボらせるわけにはいかないよ?」
「…チッ」


トムの舌打ちが聞えて、『授業サボったことあるの?』と聞けば『誰の所為だと思ってる』と頭を小突かれた。

その言葉からすると、わたしの所為でトムは授業をサボらなきゃいけなかったということ…だよね。
学生であるトムの勉強の邪魔をしちゃうなんて馬鹿だ、わたし。

もう少し自重しなくちゃ、と反省してトムに小さく謝れば彼はキョトンとしてそれからわたしの頬に唇を寄せた。


「別に授業を1、2回出なかったからって僕の成績は衰えないから大丈夫。…まあ、今回はカヤが大人しくしとけばサボる必要はなかったけど」
「うう、ごめんってば…」
「…それ、分かっててやってる?」
「?…なにそれって」
「いや、なんでも」


口を噤むトムが気になって顔を覗き込むと、手で両目を隠されて…チュというリップ音と共に唇に柔らかい感触。


「おやおや。見せつけられてしまったのう、アルバス」
「意外や意外だね。トムの方がよっぽど彼女にお熱のようだ」


クスクスと笑い声が聞こえて、グンと顔に熱が集まるのが分かる。
視界が戻るとトムは涼しい顔をしていて、校長先生と教授は生暖かい瞳をわたし達にむけていた。

きっとこの場で顔を真っ赤にして動揺してるの、わたしだけだ。
なんだか悔しくてトムに文句を言ってやろうと思ったけど、ちょうどチャイムが鳴り、ダンブルドア教授に連れられて校長室を出て行ってしまった。


「………はあ」
「苦労するのう」
「わたし日本人なのでああいうスキンシップには慣れないんですよね…」
「愛されている証拠じゃよ。年老いたわしには些か胸やけがしそうになるがの」


校長先生にまでからかわれて、トムがいなくなった後もしばらく顔の熱は冷めないでいる。

…愛されてる証拠、かあ。
にやけそうになる頬を必死に引き締めながら、わたしは校長先生に付き添われて自室へと戻った。