愛しい人
再び、リドルはダンブルドアと共に一室にいた。
ダンブルドアがリドルに課題を出してから2週間ほど経つ。
まさかあの上級魔法を1ヶ月も経たないうちに、本当に成功させたというのだろうか。
ダンブルドアはアイスブルーの瞳をわずかに揺らした。
リドルはいつもの余裕綽々の表情とは打って変わり、緊張したような面持ちで杖を構え、宙をジッと見つめている。
その様子を同じように見ていたダンブルドアは、急かすことをせずにただリドルが行動を起こすのを待っていた。
「―…必ず、またカヤと」
リドルはそう小さく呟き、その瞳は赤く染まる。
母から愛されいた。
その証にカヤと出会うことができた。
そして、幸せというものを知った。
ふとリドルの顔に笑みが浮かぶ。
それはひどく穏やかで、何かを慈しむような愛おしむような柔らかな微笑み。
ダンブルドアは驚きに目を見開いた。
「エクスペクト・パトローナム」
リドルがしなやかに杖を振り、その先端から青白い光が溢れ出す。
「…なんと、」
部屋中を埋め尽くしてしまうのではないかというほどの、大きな蛇。
青白い蛇はチロチロと舌を出して、リドルに鎌首をもたげていた。
「これが、僕の…守護霊」
ダンブルドアを同じく目を見開きながらおもむろに蛇に手を伸ばすと、スルリとその手を避けて窓の方へととぐろを巻いて移動し始める。
窓から外へ出る間際、黄金に光る瞳をリドルに向けて蛇は振り返りそしてそのまま外へ出て行った。
まるで、ついてこいとでも言うかのようなその動作にリドルは小さく溜め息を吐く。
「ダンブルドア教授、課題は達成ということでいいですか?」
「…うむ。トム、君は本当に変わったのだな」
「自覚はない。けど、僕が変わったとするならばカヤの存在がそうさせたんでしょう」
リドルはそう言って笑い、部屋を出ていった。
きっとあの守護霊の蛇を追いかけにいったのだろう。
ダンブルドアは椅子に腰かけて、目を閉じた。
あの子が闇に堕ちてしまうことをとても危惧していたし、懸念していた。
スラグホーンに分霊箱のことを聞いたり、あの作り笑いの下で何か良からぬことを企んでいるのを知っていたからだ。
生まれた時からマグルの孤児院で育ち、そしてその血筋から強大な魔力を持ち、周りからは恐れられ見放されていた。
ホグワーツに通い沢山の友や繋がりができればと思ったが、彼は自分を偽るようになり着実に闇への道を歩んでいたのだ。
しかしそれは、1人の女性の存在により覆された。
「…カヤ、君には感謝せねばならんな」
ダンブルドアは小さく笑い、それから大きくそして深く息を吐く。
彼の中にあった大きな不安が解消された瞬間だった。