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君の一生



トムは今までホグワーツの休暇中はこの孤児院に帰ってきていたみたいで、今日ここへ来るのは2年ぶりくらいらしい。
孤児院の院長であるコール先生はとても優しそうな年配の女性で、トムとわたしを見た途端『結婚するのね!?おめでとう!』と涙を浮かべていた。

それでもトムの表情は孤児院に入ってからずっと変わらず無表情だったけど。


「もう、何でそんなに不機嫌なの?」
「別に不機嫌なわけじゃない。…あそこには良い思い出がないだけだ」


メローピーさんのお墓の場所を教えてもらい、孤児院から歩いてすぐの墓地にあるらしく今はそこまで歩いてる最中。

良い思い出がないと言うトムにどんなことがあったの?と聞けるはずもなく、反応に困っているとトムは大きな溜め息を吐いた後に色んな話をしてくれた。

ウール孤児院はマグルの孤児院であった為に、魔力のあるトムは周りからとても怖がられていたこと。(これは前に聞いたことがある)
同じ孤児院に入っている子供からはイジメを受けていて、それに様々な方法でやり返していたこと。


「ええー…」


トムが受けていたイジメ、それに見て見ぬフリしていた孤児院の先生たちにはすごく腹が立って、そしてそれらに対するトムの仕返しには倍返し以上過ぎてビックリした。

だけど今のことを話すトムは、決して過去の栄光を語るような自慢げな話し方ではなくどことなく…それをしてしまったことを少し後悔しているようなそんな風に見える。


「…今思えば確かにやり過ぎた気も、する」


頬をかいてバツが悪そうにそう言うトムに小さく笑いが零れる。


「ねえ、カヤ」
「んー?」
「…僕から離れるのは許さないから」


強い言葉、だけどトムには珍しく、不安な声音だった。
墓地の入り口がすぐそばに見えるところで足を止めて、トムを見上げる。そしてギュッと彼の両手を握り締めた。


「過去のこと聞いても、トムのこと全然大好きなままなんだけど…それっておかしい?」
「……おかしいよ。バカだな、カヤは」


呆れ声でそう言い、それから安心したように微笑んだトム。
そんなトムに同じように微笑み返して、わたし達は墓地へと足を進めた。




***


メローピーさんのお墓に備えようと準備したのは赤いカーネーション。花言葉は『母の愛』、そして『愛を信じる』。

見つけた小さなお墓には、メローピーさんの名前は彫られていなかったけれど『トム・M・リドルの母、ここに眠る』との文字が彫られていた。


「こんにちは、メローピーさん」


お墓の前にしゃがんで挨拶をして、そして鞄からカーネーションの花束を取り出す。

横で立ち尽くしていたトムに水の入った瓶と手拭いを渡して、一緒に軽くお墓掃除をして。
お墓参りに来るのは初めてだと言っていただけあって、トムは少し戸惑ってはいたけど文句は言わなかった。


「さ、手を合わせよう」
「…手を?」
「うん。メローピーさんに伝えたいこととかない?」
「………」


綺麗になったお墓の前で、2人で手を合わせる。

トムを産んでくれてありがとう。
トムを愛してくれてありがとう。
そして、トムと出逢わせてくれてありがとう。

メローピーさんのトムを想う愛は、きちんとトムにも伝っていると思います。
トムがこれからずっと幸せでいれるようにわたしも頑張ります。
あ、それと近況報告も兼ねて定期的にここへ足を運びますね!そのときはまた違うお花を持ってきます。

あとは、とそれから長々と伝えたいことを頭の中にたくさん並べているとトントンと肩を叩かれた。


「…長い」
「あ、ごめん。伝えたいこといっぱいありすぎて…」


腕を組んでわたしを見下ろすトムに謝って立ち上がると、トムは器用に片眉だけピクリと上に動かす。

何を言ったんだ?って顔。
恥ずかしいなあ、と曖昧に微笑んで地面に置いておいたカーネーションの花束を腕に抱えてからトムを見上げた。


「トムを産んでくれたこと、愛してくれたことにありがとうって」
「…ふーん」
「あとは、これから先ずっとトムが幸せでいれるように頑張りますって!」


そう伝えてお花が潰れないように気を付けながら一度だけキュッと花束を抱き締めてから、メローピーさんのお墓へと供えた。


「………」
「…トム?」
「………」
「トムさーん?」
「………」


振り返ってもトムからは何の反応もない。

不安になってもう一度、トム?と呼んで顔を覗き込む。すると、トムの黒く深い瞳と目が合った。吸い込まれそうなその瞳にドキッと胸が高鳴り、目が逸らせない。


「カヤ…」
「……っ」


伸びてきたトムの手が、わたしの頬を包んだ。

俯いて、はあーと大きく息を吐いたトムが顔を上げて再び目が合うとトムの瞳は紅く変化していて、トムの瞳の中で炎が燃えているのかと錯覚するように瞳がゆらゆらと揺れている。

いきなりどうしたんだろう、トム…。


「場所、変えよう。カヤに伝えたいことがある」
「え、わっ…ちょ!」


早口でそう伝えられて返事する間もなく抱き締められた。

バチン!という音と共にやってきたのはあのグルグルかき回されるような不快感で。
コレするなら先に言ってよ心の準備ができないじゃない!なんて文句すら言えず、トムに連れられるがままその場から消えた。