君が一番
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カヤがこっちにきて半年と少し。
最初の頃よりはだいぶホグワーツに馴染んできたようで、僕と一緒にいない時もよく女生徒たちと仲良くやってるようだった。(男は近付けさせないようにしてある)
「カヤさんの仮装、楽しみだね。トム」
「…気安く名前を呼ぶなと何回言えばわかるんだ」
「いいじゃないか、名前くらい。束縛の激しい男は嫌われるよ?英国紳士たるものもっと寛大にいかないとね」
「カヤはそんなことじゃ嫌わない。まあ、たとえ嫌われたとしても一生手放す気はないけど」
「うわっ、怖いねえ…」
浮足立った女生徒たちに恋人が連行されてる間、アブラクサスとくだらない話で時間を潰していた。
今日はハロウィンということもあり、多少の騒がしさは大目に見るらしく教員席の教授たちからのお咎めはない。
「ヴァル、ほらもっとこっち来いよ」
「…ちょ、やめてちょうだい!何故わたくしがこのような格好を…っ」
「いいじゃん。似合ってるよ。さすが俺の嫁!」
「も、もう…!」
『……………』
オリオンとヴァルブルガのコレももう慣れたつもりではいたが、年を重ねるごとに酷くなる一方で見るに堪えない。
御家柄、本人たちの意思とは無関係に決められた婚約者同士であるのにも関わらずここまで仲が良いのは珍しくもあるが。
僕とカヤも負けてないけど。というか負けるわけないけど。
「年上の威厳まるで無しだね、Ms.ブラックも。はあー周りが花ばかり撒き散らすから鼻がひん曲がりそうだよ…」
「アブラクサスにもいるだろう、婚約者」
「ああ、いるよ。とても可愛らしい子がね」
「ふーん」
「まあ、私のことはさておき。君は?いずれはカヤと結婚するつもりなんだろう?」
音を立てずに肉を切り、口に入れて咀嚼しながら深く頷いた。
「もちろん。僕が卒業したらすぐにでも」
「式には必ず呼んでほしいな。『その結婚ちょっと待った!』なんてことしたら楽しそうだ」
「待つも何も、そういうことは略奪できるという望みと自信がある奴だけがやるものだ。相手がカヤじゃ、ありえない」
「相手がカヤさんというよりも、相手が君じゃ無理だろうね」
命がいくつあっても足りない、とクスクス笑いを零すアブラクサス。
呑気なこいつは気付いていないのか。
さっきからこいつの婚約者である女生徒が、チラチラと視線を投げかけていることに。
「あ、あのっ…」
「おや、どうしたんだい?アリア。君から声をかけてくるなんて珍しいね」
「私、アブラクサスさんに見てもらいたくて…あの、!」
「…ふふ。こんなに頬を真っ赤に染めて可愛らしいね。よく似合ってるよ。さすが私の未来の妻だね」
「……っ!!」
まるで茹蛸のように顔を真っ赤にさせて身体をよろけさせた彼女を、アブラクサスが手慣れたように支える。
「ね、可愛いだろう?たまにちょっと突き放して、後でこうやって飴を与えてあげるんだ」
「…悪趣味だな」
「愛故、だよ」
おまえも十分に花を撒き散らしてるじゃないか。
とでも言おうと思ったけど、それはこの場に現れたカヤの存在に阻止された。
「できましたわ!さすが私、完璧ね!」
セルゴーンがそう豪語するのも納得だった。
頭にかぶった真っ赤な頭巾からサラリと揺れる、黒い三つ編み。
胸元はがばりと開いていて、胸の谷間がよく見える。
そしてやけに短いワンピースの丈に、太ももまである白いソックス。
そのソックスとワンピースの間の肌色が、色気を増幅させていた。
「あの、トム。これ…本当に、どうしよう…」
スカートの丈をギュッと握りしめて、涙で潤んだ瞳で僕を見上げてくるカヤ。
「………」
誰がなんと言おうと、僕のカヤが一番だろう。
「…異論は断じて認めない」
「え?、ってうわ!」
これ以上、カヤを他の男の目に触れるところに置いておきたくなくて自分のローブを彼女に被せて抱き上げた。
ニヤニヤしている周りの視線が腹立たしいが、腕の中のカヤを見つめて心を落ち着かせる。
「カヤ。トリックオアトリート」
「…へ、あ!お菓子おいてきちゃった」
「じゃあお菓子の代わりにカヤを頂くことにする」
「ト、んんっ」
カヤの無防備な唇にキスを落として、思わずペロリと舌なめずりをした。
「今日のカヤ、すごくおいしそう」
「…ひー!」
(据え膳食わぬはなんとやら)