小説 | ナノ
×
- ナノ -


夢の為に



***


こんな風に2人でゆっくり買い物をするのはトムがこっちに来た時以来じゃないかなあ、と歩きながら考える。

ホグワーツに来てトムが6年生になる今ままでの約半年間はけっこうドタバタしてたし。


「うわー!すっごー…!」


トムに手を引かれるままにやってきた店は雑貨店のようで、それでも店内に溢れる魔法の数々にわたしは感嘆の息を吐いた。

魔法使いの村、ホグズミードって言ってたっけ。
ホグワーツの方が衝撃は大きかったけど、この場所もなかなか心踊らされる。


「カヤ、僕は少しの間別で用事を済ませてくる」
「え?一緒に行かないの?」
「…そんな目で見ないでくれないか。すぐに終わらせてくるから」
「んー、分かった。じゃあこの辺を適当に見てるね」


ホグワーツを出てからずっと繋がれていたトムと手が離れると、ヒュッと冷たい風が吹き抜けて暖かさが失われていく。

思わずコートの中に手を引込めると、トムは困ったように笑いながらわたしの額にキスをした。
周りにいるたくさんの人々は、こんなイチャつきにも気にした様子はない。さすが日本とは訳が違う。




***


店内の雑踏に消えていくトムの背中を見つめて、それからわたしは近場の棚の商品をぼーっと眺めていた。

なんか、アクセサリーが欲しいかも。
トムとお揃いのピアスは壊れちゃったし、また新しくお揃いでつけられる物とか買ってもいいかもしれないなあ。

そう思ってアクセサリー売り場を探しに行こうとすると、ポンと肩に軽い重みが乗った。


「…トム?」
「残念。私だよ」
「なんだ、マルフォイか」
「なんだとは何ですか」


ぷくり、と頬を膨らまして拗ねる彼、アブラクサス・マルフォイ。
トムの友達である彼は、拗ねた表情からニコリと微笑み顔になりわたしの手の甲に口づけてくる。

会う度にこんなことしてきてその度に毎回トムから痛々しいお灸を据えられてるというのに、懲りないなこの自称英国紳士も。


「どちらへ行かれるのですか?」
「アクセサリー、見たいなと思って」
「…ああ、そうでしたか。それは、まずいですね」
「はい?」
「トムを待っているのですよね?その間暇でしょう?」
「暇といえば暇だけど、すぐ戻ってくるって…」
「さあ、ホグズミードに来たらバタービールは飲まないと損ですよ」
「ちょ、人の話を聞け…ってば!」


ドカッ。
そんな鈍い音と共に、わたしの手を掴んでいたマルフォイが一瞬で消えて行った。

こんなこと前にもあったよね…。
デジャヴを感じて苦笑を漏らし、マルフォイを吹っ飛ばした本人であろう人を振り返った。


「トム、学校ならまだしもお店の中で暴れるのは良くないよ」
「暴れたわけじゃない。…アブラクサス、もう少しやり方を考えられなかったのか?」


はあ、と大きな溜め息を吐いたトム。
むくりと立ち上がったマルフォイはコートやズボンについた汚れを払って、肩を竦めてみせる。


「酷いね、トム。君に頼まれたことをやっただけなのにこの仕打ちとは…」
「君に下心がないのであれば僕もこんなことはしないんだけどね?」
「ふむ。生憎だが、私はまだカヤを愛人にという願望は捨ててないのでね…それは無理な、痛っ!」
「散れ」


トムがマルフォイの手の甲を引っ張って抓り上げる。

そんなじゃれ合いを見て、わたしはクスクスと笑いを零していた。
きっとここにブラックくんがいても同じように笑っていると思う。


「はあ、カヤ。待たせてごめん。今からはずっと一緒だ」
「うん。トムの用事ってなんだったの?」
「―…準備だよ。君の夢を叶える第一歩となる、ね」


トムはニヤリと笑ってわたしの手をギュッと握った。
熱の戻った手から、身体中が暖かくなっていくようだった。

トムの言葉の真意は分からないけれど、悪いことをしているわけじゃないようだしあまり詮索しないことにする。
何よりも、わたしの夢を叶える為、と言われてしまえばそれを信じて期待を抱かずにはいられないもの。


「君を幸せにできるのは僕だけだから」


自信満々にそう言い放つトムに返事をするように、わたしは彼の手を強く握り返した。



(愛あればこそ)