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彼の友達



振り返ったそこには、トムがいて。
それはもうその視線で人を射殺せるのではないかって程の鋭い眼光で、赤い瞳をギラギラさせていた。


「カヤ」
「…ひっ。と、トム…いつからそこに?」
「『トムだから好きになった』くらいから」
「そっ、え…ええー」


驚きすぎて言葉にならない。
だってまずトム以外の人を部屋に入れてるこの状況がマズいし、それにわたしのトムへの想いも全部聞かれてた…ってことも。

恥ずかしくて死にそう、と顔を覆えばトムの香りがふわっと鼻孔を掠める。


「カヤ、僕以外を部屋に入れたことについては僕への愛の言葉で相殺してあげる。…だが、アブラクサス」
「……っ、」
「僕の目を盗んでカヤに近付き、触れたことは許さない」
「ちょ、ちょっと待って!」


フラリと立ち上がったマルフォイに迷いなく杖を突きつけたトムにギョッとして、わたしはトムのローブを引っ張った。

トムが怒ってくれるのは嬉しいし、気持ちも分かる。
だけどマルフォイは友達としてトムのことを思って行動してくれただけ。


「カヤ、」
「トム、マルフォイはトムのことを考えてくれただけなんだよ。いきなり現れたわたしを警戒するのも仕方ないと思うし、トムを思っての行動だと思う!まあ、腹立つこと言われたりしたけどわたしはもう気にしてないしさ」

「………はあ」


わたしにチラリと視線を向けたトムは、瞳をスッと黒に戻してから大きく溜め息を吐いた。
それから杖を仕舞い、椅子にゆっくり腰を下ろす。


「気は済んだのか?」


トムは、さっきと同じ質問をマルフォイに投げかけた。

わたしはなんとも言えない不穏な空気に居心地が悪くなりながらも、交互に2人へと視線を移している。


「…ああ、そうだね。彼女は、とても魅力的だ」


トムが片眉をピクリと動かして足を組み直すのが見えた。


「先程は失礼なことを言ってしまい、申し訳なかった。君のトムへの愛が本物だということはそれはもう妬ましいくらいに分かったよ。ところで、君のような気の強い女性は今までで初めて出会ったのだが…あの力強い瞳で睨まれると何とも征服感というものが湧き上がってきてね。是非とも君を屈服させてみたいのだけれど、私と愛人関係になる気は…ぐふっ!!」


わけの分からないことをベラベラと話し出したマルフォイがわたしの手に触れようとする前に、トムに蹴っ飛ばされて地面に転がる。

なに愛人関係って…堂々と人前で言うことじゃない気がするんだけど。
まあでも、なんやかんややっぱり仲の良い友達なんだろうなあ。

小さく笑いを零しながらトムとマルフォイがワーワー言い合ってるのを眺めていると、ポンと肩に手を置かれた。


「アッハハ!あいつらがあんな風にじゃれついてるのなんか初めて見たぜ!」
「…どなたですか?」
「オリオン・ブラック。俺もトムの友達っちゃあ友達だ!それにしてもトムはあんたのことになるとあんなに感情的になるんだなあ。面白すぎ」

「オリオン!貴様、」
「ストップ。俺はトムの姫さんに手を出す気はないぜ!かわいい婚約者がいるんでな」


トムが目敏くブラックくんを見つけて、わたしの肩に乗せられた手を払う。

両手を上げて降参ポーズをする彼にトムは疲れたように大きく息を吐くと、わたしと向き合ってコチンと額を合わせてきた。

ボロボロになったマルフォイにブラックくんがケラケラ笑いながら近付くのが視界の端に映る。


「カヤは、僕だけのものだ…っ」
「…〜っ!」


トムはそう言ってグリグリと額を擦り付けてくる。
ズキュンと胸を射抜かれて、身体中の熱が沸騰していくのが分かった。

なにこれなにこれ。
トムが、あのトムがめちゃくちゃ可愛いんだけど…!
ああ、もう。トムが大好きすぎて本当にどうにかなってしまうんじゃないだろうか。

うぐぐ、と悶えながらもトムにギュッと抱きついた。


「わたしはトムだけのものだよ」


額を離したトムは目元を緩ませて、解放されたばかりの額にキスを1つ落とす。


「ああー、見せつけてくれちゃって」
「くっ、私はまだ諦めませんからね!」
「いやおまえも婚約者いるだろ、諦めろよ。はあ、俺もヴァルのところいってイチャイチャしてこようかなあ」


とりあえず、トムの友達には認めてもらえたってことでいい…のかな?



(2人の愛はホンモノでした!)
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ごめんなさい、うちのアブは変態です。