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彼の友達



「貴女はトムのどこを好きになったんですか?」
「…はい?」


テーブルの上で手を組み、わたしを値踏みするような目でじっとりと見つめてくるマルフォイくん。

どこを好きになったと聞かれてもなあ…。そう改めて考えてみると分からない。
分からないというよりも『こうだからここが好き!』とはっきりしたものではない気がする。

寂しそうなトムや悲しそうなトム。
嬉しそうなトムや楽しそうなトム。
彼が見せるたくさんの表情に、わたしは惹きつけられて。

冷たくて、不器用で、暖かくて、優しくて。
トムという人に惹かれて、そしてわたしは恋をした。

だから、どこを好きになったと聞かれても。


「ー…トムだから好きになった」


こうとしか答えられないよ、と言うとマルフォイくんはグッと眉間にシワを寄せる。
きっと彼のお気に召す答えじゃなかったんだろう。

だけどわたしの答えは変わらない。トムのことが好きだから好き。
それに、こういう気持ちって理屈じゃないんだと思うし。


「…所詮、」
「………?」
「顔でしょう。何をしても完璧なトムを、自分を引き立てるアクセサリーのようにしか思っていない」

「…は?」
「それならば別に私でも問題ないのでしょう?…トムはやめて私と愛を育みませんか?カヤ」


カタリと椅子を鳴らして立ち上がったマルフォイくんは、わたしの傍に寄ると頬に手を添えてくる。


「私は外見も良い方だし、財力も約束された地位もある。貴女が求めるものは十分、私にも備わっていると思いますよ」
「それ以上言ったらキレるよ」


彼の手をバチンと勢いよく振り払って、わたしは思い切り睨みつけた。

なんなんだこいつ。
トムの友達だから下手なこと言いたくなかったけど、もう我慢の限界。

驚いてるのかなんなのか知らないけど目を見開いたまま固まるマルフォイ(もう呼び捨てにしてやる)に、グッと迫る。


「いい?よく聞いて。わたしは、君に名前を呼ばれても何とも思わない。さっきみたいに触れられてもただ不快なだけだった。どうしてか分かる?…君が、トムじゃないからだよ」


腹が立って仕方なくて、だけど感情的になっちゃダメだと抑えてできるだけ落ち着いた口調で言葉を紡いでいく。


「いくら顔が良くても、いくらお金があってもそれがトムじゃなきゃ意味がない。それにトムは完璧なんかじゃないよ。欠点だってあるし、弱いところだってある。わたしはそれを知ってるし、それも含めてトムの全部を好きになった」
「……っ、」


怒りもあるけど、何より悔しかった。
わたしのトムへの気持ちを、軽んじられて外見だけだと貶されて、偽りだと思われてしまったことが。


「トムの上辺だけしか見れてないのは、マルフォイの方じゃないのかな。トムは、君が思っているよりももっともっと人間味に溢れてて感情豊かな魅力的な人だよ」


君はトムが外見も良くて完璧な人間だからって理由で友達になったの?

そう続けて聞けば、マルフォイくんは長い睫を伏せて『…違います』とだけ小さくつぶやいた。
それを聞いて、わたしはホッと息を吐く。

なんやかんやけっこう酷いこと言ってきたけど、マルフォイはきっと友達としてトムのことを心配してくれたんだと思うから。
わたしはさっき叩いてしまった彼の手にそっと触れた。


「わたしはトムのことを裏切るようなことは絶対にしないよ。だから、信じてほしい」

「―…ということだ、アブラクサス。気は済んだか?」


トムの声が聞こえたかと思った瞬間、目の前のマルフォイくんは見えない力にヒュッと飛ばされて視界から消える。