波乱の日
***
ホグワーツはとにかく広かった。
そして同じような場所がいくつもあるし、階段は突然動き出して今来た道を戻ろうに戻れなくなるし。
ということで、今のわたしは絶賛迷子中だった。
「ど、どうしよう…!」
今いる場所が何階なのかも、そもそも自分がいた部屋がホグワーツの中のどこに位置しているのかも分からない。
浅はかだった…そりゃあ普通の学校とは訳違うもんね。
うう、と人のいない廊下の隅で溜め息を吐くのと同時にしゃがみ込む。
壁に掛けられた絵画が『大丈夫かい?お嬢さん』なんていきなり声を掛けてくるものだから小さく悲鳴を上げれば絵画は機嫌を悪くして顔を思い切り顰めていた。
「…ごめんなさい」
さてあの部屋に戻るには、事情を知っている校長先生かダンブルドア教授、そしてトムの3人のうち誰かを見つけなければきっと無理。
かと言って迷子の状態で動き回るのも…。
あーわーと悩んでいると、静かだった廊下にガヤガヤと話し声が聴こえてきてそれは段々と大きくなってくる。
授業が終わったのかもしれない…!
わたしはバッと立ち上がってトムの姿を探そうと思い、その話し声の方へと足を動かした。
***
この僕が授業をサボってしてまで探してやってるのに、カヤは一向に見つからない。
絶対に言えることとしては、彼女は今迷子になってるということだろう。
何故こんなバカ広い魔法のかかったホグワーツを、何も知らないくせに探検しようと思ったのか。
きちんとあの部屋に戻ってこれると思っていたのなら…うん、やはり『お仕置き』はしとかなきゃならないな。
階段を上ったり下がったり、さすがに疲れてきた。
そろそろ授業が終わるな、と廊下に置かれたベンチに休みがてら腰をかけた。
「よ!トムじゃないか!」
「…オリオンか。今疲れてるんだ、大きな声を出さないでくれる?」
「優等生のトム・リドルくんが授業をサボるのはこれで2回目だな。信じられなかったみたいで教授、出席確認の時に君の名前を5回は呼んでたぞ」
可笑しそうに笑うオリオンのつまらない話に反応する気にもなれず、僕の思考の中心には相変わらずカヤがいる。
もうピアスはついていないはずなのに自然と右耳に手が伸びて、耳たぶを触っているとオリオンが『あ!』と大きく声を上げた。
大きな声を出すなというのがこいつには聞こえなかったのか。
ギロリと睨みつければ、オリオンは冷や汗を顔に滲ませながら頬をかく。
「あーいや、なんか中庭で面白そうなことになってたのを思い出してさ」
「面白いこと?」
「珍しい目の色をしたスリザリンの女子生徒が、トムのファンに囲まれて何やら一悶着してたみたいだぜ」
俺もチラッと見たけどあんな奴スリザリンで見たことないな、と唸りながら呟いているオリオン。
それを聞いて僕は勢いよく立ち上がった。
「珍しい目の色って何色?」
「は、あーえっと…」
「早く答えろ」
「オレンジ色、だったな確か。髪は黒で…ってトム!?」
長いこと動かし続けた足の筋肉が悲鳴を上げていたが、そんなものは関係ない。
オリオンの言っているのはカヤで間違いない。
スリザリン生と言っていたが、まさかあの部屋のクローゼットにはホグワーツの制服まで入っていたのか?
いや、今はそんなことはどうでもいい。
とりあえずカヤがいるであろう中庭に急いだ。
向かう途中で減点されても面倒だから、なるべく走らないように。